『しんとく問答』は「問答」、とりわけ「問いかけ」によって作られた作品である。その「問いかけ」は様々な空間―現実世界としての空間、古典や伝説の書物の文字世界の空間、地図や写真の平面世界の空間―の中から生み出されている。そして、これらすべての空間は“大阪”という都市のものである。つまり、現在と過去をまたがり、変わりゆく都市大阪の空間の中から生じる「問いかけ」の物語ともいえる。また、この「問いかけ」はほとんどが解決されることのないままである。「問いかけ」に対して「答え」を求めるのではなく、「問いかけ」そのものを追い求めているかのようである。
『しんとく問答』は主人公の50〜60代と思われる男が「俊徳丸鏡塚古墳」を見学するために八尾市高安の山畑に向かうまでのことや鏡塚での出来事を、文献引用やそれに関する考察を織り交ぜながら日記体で綴る、という形態によって書かれている。日記、というものは現実に起こったことを文字空間におきかえる。現実世界から文字世界への空間の変換が初めからすでにおこなわれており、『しんとく問答』は迷宮のように空間が入り混じって話しが展開されている。
日本文学演習Ⅳ(月曜7・8限) 2004.10.4.提出
後藤明生『しんとく問答』について
―変貌する都市大阪の過去と現在の空間の中で―
『しんとく問答』は「問答」、とりわけ「問いかけ」によって作られた作品である。その「問いかけ」は様々な空間―現実世界としての空間、古典や伝説の書物の文字世界の空間、地図や写真の平面世界の空間―の中から生み出されている。そして、これらすべての空間は“大阪”という都市のものである。つまり、現在と過去をまたがり、変わりゆく都市大阪の空間の中から生じる「問いかけ」の物語ともいえる。また、この「問いかけ」はほとんどが解決されることのないままである。「問いかけ」に対して「答え」を求めるのではなく、「問いかけ」そのものを追い求めているかのようである。
『しんとく問答』は主人公の50~60代と思われる男が「俊徳丸鏡塚古墳」を見学するために八尾市高安の山畑に向かうまでのことや鏡塚での出来事を、文献引用やそれに関する考察を織り交ぜながら日記体で綴る、という形態によって書かれている。日記、というものは現実に起こったことを文字空間におきかえる...