金属アルコキシドのゾルルゲルプロセスによる無機材料の製造

閲覧数2,586
ダウンロード数7
履歴確認

    • ページ数 : 10ページ
    • 全体公開

    資料の原本内容

    実験レポート
    実験題目:
    金属アルコキシドのゾルゲルプロセスによる無機材料の製造
    1.緒言
    1.1.実験の目的
    Tetraethylorthosilicate(TEOS)を塩基性条件下、酸性条件下でそれぞれ反応させて、球状微粒子の合成、バルク体の作製を行い、電子顕微鏡で観察を行う。これを通して、ゾル-ゲル法や電子顕微鏡の構造についての理解を深める。
    1.2.原理
    ゾル-ゲル法とは無機、有機金属塩の溶液を出発溶液とする。この溶液を加水分解および縮重合反応によりコロイド溶液(Sol)とし、さらに反応を促進させることにより流動性を失った固体(Gel)を形成させる。このGelを熱処理することによりガラスやセラミックスを作製する方法である。
    ゾル-ゲル法の特徴
    ガラスが低温で生成し、緻密に焼結した多結晶セラミックスが低温で生成。
    高度の均質性が容易に達成できる。
    反応式
    nSi(OC2H5)4 + 4nH2O → nSi(OH)4
    nSi(OH)4 → nSiO2 + 2nH2O
    2.実験方法
    2.1.塩基性条件、球状微粒子の合成
    (1) A1溶液:エタノール溶媒に対して、TEOS濃度0.8mol/Lの溶液 15mL
    (エタノール9.63mL、密度0.932g/mLのTEOS 2.68mL)
    B1溶液:エタノール溶媒に対して、H2O濃度11.0mol/L, NH3濃度2.4mol/Lの溶液 15mL
    (エタノール11.18mL、密度0.91g/mLの25%NH3 2.69mL、H2O 1.13mL)
    を作製した。
    (2) A1, B1溶液を室温(22.5℃)または50℃で混合した。
    (3) 球状微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察、大きさの測定をした。
    2.2.酸性条件、バルク体の作成
    (1) A2溶液:エタノール溶媒に対して、TEOS濃度1.5mol/Lの溶液 20mL
      (エタノール13.3mL、密度0.932g/mLのTEOS 6.7mL)
      B2溶液:エタノール溶媒に対して、H2O濃度37.0mol/Lの溶液 20mL
      (エタノール7mL、H2O13mL、1.1×10-2mol/LのHCl 0.4mL)
      を作製した。
    (2) A2, B2溶液を50℃で混合した。
    3.実験結果
    酸性条件 塩基性条件 形状 バルク体 球状の微粒子 反応時間
    (溶液混合から白濁までの時間) ― 1分30秒 (50℃)
    5分2秒  (22.5℃) 比表面積(BET式) 458.75m2/g 9.16m2/g(室温) 平均粒径 ― 178nm (室温)
    195nm (50℃) 色 白く濁った色 白色
    4.考察
    反応経路の違いについて
    1)酸性条件下(図1)
    酸性条件下での加水分解は求電子反応による。溶液中のH3O+はアルコキシル基の酸素に対して攻撃し、SiORをSiOHとし、結合が切れることにより生成したR+はHO-と結合しアルコールを副生成物として形成する。反応が進むにつれてアルコキシル基とH2Oが減少するため、加水分解反応速度は徐々に低下する。この加水分解反応が始まると同時に縮重合反応も始まるため、生成したSi(OC2H5)3(OH)は周辺のSi(OC2H5)3(OH)と脱水縮重合を起こす。これらの反応が進行すると生成するポリマーは直鎖状に近い構造となり、絡み合うことで3次元編み目構造を構成し、自由に動き回ることができなくなるために流動性を失ったゲルとなる。
    2)塩基性条件下(図2)
    塩基性条件下ではHO-がSi(OC2H5)4に対して求核反応となり、Siに直接攻撃をする。HO-は非常に負の電荷が強く、-OC2H5も負に帯電しているため立体障害を起こし、反応性は低い。しかし、多量のHO-が周囲を取り囲むことにより確率的ではあるが反応が開始する。HO-により攻撃を受けたアルコキシドは一時的にSi(OH)(OC2H5)4となるが、不安定な状態のためRO-が脱離し、H2Oから解離したH+との間でアルコールを形成する。この反応により生成したSi(OH)(OC2H5)3のOH基は非常に短い側鎖で構成されているため立体障害が軽減され、OH-の攻撃を容易に受ける。また、攻撃されるSiの量は減少することはないことから反応速度は急激に増加し、一気に加水分解されSi(OH)4となる。Si(OH)4の全てのOH基は縮重合することが可能であるため、非常に3次元性と密度が高いゲルを形成する。
    図1.  酸触媒下での金属アルコキシドの加水分解・重合反応
    図2.  塩基触媒下での金属アルコキシド加水分解・重合反応
    温度による粒子の大きさについて
     溶液を混合してから白濁するまでの時間を比較すると、50℃の方が反応が速いということが分かる。つまり、50℃では室温に比べてSiO2の核が速く大量にできるので、粒子が生長していくのに際して、大きさが小さく分布にあまりばらつきが見られないものになると考えられる。また、室温では50℃に比べて、粒子の生長が遅く量も多くないので、粒子は大きいものになり分布にはばらつきがでると考えられる。この考察と以下のグラフはうまく合致しているといえる。室温ではばらつきがみられ分布のピークがいくつか見られるのに対して、50℃では、185~195nmをピークとしてその近傍にほとんどのものが分布していることが分かる。
    図3. 粒径分布
    粒子のスライドガラス上での呈色について
    スライドガラス上で粒子を乾燥させると、結晶のように周期的な構造を持つ膜となる。それに対して、ある波長の光をいろいろな角度から照射すると、ある角度では強い光の反射が起こるが、別の角度では反射がほとんど起こらないという現象を観測できる。これは膜を構成する粒子により散乱された光が、強めあったり、打ち消しあったりするためである。ブラッグの法則は、光の波長と結晶構造の幅、および反射面と光線が成す角度の間の関係を説明する。次の関係式をブラッグの条件と呼ぶ。
    ここで、 は周期構造の幅、 は結晶面と光線の間の角度、 は光の波長、 は整数である。様々な波長をもつ光のうち、その角度でブラッグの条件を満たすような光のみが強く反射されて呈色が認められる。
    図3. ブラッグの法則
    図4. ブラッグの法則
    比表面積測定について
    吸着という現象を利用して物質の比表面積(単位質量あたりの表面積)を測定するのが比表面積測定である。計算法としてBET吸着等温式を適用したが、これらの方法で得られる表面積は物理吸着を利用していることから試料の化学組成にはほとんど依存しないのがメリットである。反面、結果が得られるまで長時間を要することがデメリットといえる。
    測定の原理は以下の様である。装置から窒素ガスが送り込まれると、試料表面に窒素ガスが吸着し、吹き込むガスの量を増やしていくと試料表面は窒素分子で覆われていく。そして窒素分子が多重に吸着していく様子を圧力の変化に対する吸着量の変化としてプロットする。このグラフから試料表面にだけ吸着した窒素分子吸着量をBET吸着等温式より求める。窒素分子はあらかじめ吸着占有面積が分かっているのでガス吸着量より試料の表面積を測定することができる。
     BETの式 
             (縦軸)  (切片) (勾配) (横軸)
    ここで、 は相対圧 における吸着量、 は単分子層吸着量、 は 、 は吸着熱、 は吸着質の液化熱である。
     単分子層吸着量 が求められれば、試料の比表面積は次式で計算される。
    ここで、 は単分子層吸着量(mol)、 はアボガドロ定数、 は分子断面積、 は試料重量である。
    今回の実験結果は次頁の通りである。酸性条件のほうがかなり比表面積が大きい結果となった。先の反応経路の違いについてで述べたように、酸性条件下では3次元編み目構造の物質が合成され、その編み目の間には水やエタノールが取り込まれているが、乾燥によってそれらは蒸発するので、その部分が小さな孔となる。対して、塩基性条件下では密度が高い物質が合成されるので表面が平坦な構造になっている。また、酸性条件の物質に孔があることは、吸着等温線において、加圧と減圧の曲線が重なっていないことからも分かる。この違いが両者の比表面積の違いとなってあらわれていると考えられる。
    酸性条件
    比表面積:458.75m2/g
    (BET式)
    塩基性条件(室温合成)
    比表面積:9.16m2/g
    図5. 今回の実験での吸着等温線
    電子顕微鏡について
     可視光を用いて物体を拡大観察するには約1000倍が限界であることがわかった。そこで、可視光より短い波長をもつ波として電子が利用されるようになった。電子の波長は0.001~0.01nmと非常に短い。電子の場合にはガラスレンズの代わりに電子レンズが用いられており、理論分解能は0.03nmである。ただし、装置の機械的精度により、実際の分解能は0.3nm程度となる。さらに、電子は負の電荷をもつため電磁石により移動できる利点がある。このように、電子を利用して物体を観察する装置が電子顕微鏡であり、10万倍程度まで拡大して観察できる。電子顕微鏡には、透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope ; TEM)と走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope ; SEM)がある。
    以下は今回に実験に使用したSEMについてである。
    1)スパッタ処理
     SEMでは電子線が透過せず試料内部で止まるため、電気絶縁性試料を観察する場合には試料表面に導電性の金属薄膜をつけて入射電子を導出する...

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。