「音楽の指導に必要な基本事項について」
子どもの成長速度は、大人の成長速度に比べるとはるかに早く、子どもの成長を良い方向に導くためには保育者である大人の援助が必要不可欠である。ここでは、子どもの発達に伴う音楽活動のさまざまな手段とそれに対する保育者の援助方法を、幼稚園児対象と仮定し考えてみる。
音楽活動の手段と方法
はじめに、3歳児を対象とし考えてみる。この時期の特徴として、心身の発達が目覚しくなるとともに、幼児語は残るものの言葉と思考が結びつくようになってくることがあげられる。また、それに伴い運動機能も向上し複雑な動作をすることも可能となってくる。これにより、簡単な歌であれば始めから終わりまで通して歌えるようになり、グループによる合唱や遊びの場における呼びかけ、擬声などを用いた言葉遊びもできるようになる。その結果、音楽活動に対する関心や意欲が芽生えるといえる。
次に、4歳児を対象とし考えてみる。この時期においては、3歳時期に比べ更に発達が進むとともに、音楽活動に必要となる能力も大幅に発達してくるようになる。これにより、音声のコントロールが取れるようになるとともにバランスを取りながら正確に歌うことができるようになる。また、リズムに合わせて手を叩く、踊るなどといった身体的動作を加えられるようになるのもこの時期の特徴といえる。
最後に、5歳児を対象とし考えてみる。この時期になると、音楽能力も更に細かく発達し大きな特徴を持つようになる。この特徴として、声域の拡大とともに音程及びリズムの正確さが現れ合唱の複雑化が可能になることや、楽器の演奏が可能となりそれに伴う能力の向上によって合唱に合わせて演奏することもできるようになる、などがあげられる。
以上のように、幼稚園時期における子どもの音楽活動には、さまざまな手段や方法があると考えられる。
音楽活動を行う際に子どもに対し保育者が取るべき援助方法
3歳時期における援助方法として、次のように考えられる。まず、この時期では自己表現がまだうまく行えないため、一人ひとりの発達に目を向けむやみに叱ることがないようにすべきである。また、音楽素材や楽器類に合わせてリズム打ちを行うことや、保育者の動作を真似させることも必要である。これにより、子供の表現方法の幅を広げることが可能となる。さらに、表現に対する意欲を引き出すためにも、絵本の読み聞かせや手遊び歌などを学習内容に盛り込むことが重要と考えられる。
4歳時期においては、集団行動が可能となる時期であるため、音楽機器を活用し音楽に合わせてリズムや動作をつけることを基本とするよう心がけることが必要となる。また、保育者自身も生活の中に音楽を取り入れることにより、自身が感じた音楽に対する楽しさなどの豊富な感情を子どもに教えられるような姿勢を保つことが重要である。
5歳時期においては、子どもの中にさまざまな感情が芽生えてくることに伴い、表現方法も多種多様となってくる。そのため、どのような表現であったとしても否定せず認めることが必要とされる。また、子どもが自分だけでなく、周囲の音楽に対する表現を知るためにも表現方法の発表の場を設けることにより、表現力の多様さや音楽活動における感動などを認識させることも効果的であると考えられる。それに伴い、楽器を使用した音楽活動を実施し、子どもにとってそれまで耳で聞くだけであった音楽を実際に体験させ、音楽に対する新たな興味と意欲を抱かせることも重要となる。
以上のように、保育者はただ単純に音楽を子どもに聞かせるだけでなく、実際に自分も演奏してみたい、やってみたいと思わせるような方法を選択していくことが保育者の取るべき援助策だと考えられる。
合唱に伴うピアノ伴奏及び合奏の指導法とその際にあげられる留意点
音楽活動を行う時、指導者は幼児の発声器官の発達と声域・リズムと旋律について把握しておくべきである。幼児の音楽的な基礎能力は年長組の段階でほぼ完成するといえるが、和音、長調と短調の区別などに対しては理解しづらい、まったく理解できないといった反応を示す幼児もいると考えられるため、合奏や合唱指導にあたっては、細心の配慮が必要であると考えられる。
ピアノ伴奏
幼児に対する歌唱指導においてピアノ伴奏とは、絶対不可欠な存在であるといえる。幼児が保育園及び幼稚園、小学校低学年などで合唱する際に教材として使用される曲の中には、現代歌ももちろん含まれているが、それ以上にわらべ歌が適していると考えられている。このわらべ歌とは幼児が遊ぶ際に発するひとり言や話し言葉などから生まれたものであり、ピアノ伴奏によるメロディーが非常に重要とされる。そのため、ただメロディーを弾くのみでなく幼児がその歌を聴き、実際に歌うことでどのように感じるのかを頭の中に置きながら手本及び伴奏を行うべきであると考えられる。また、幼児は歌う内に怒鳴り声のような歌声へと変化してしまいがちなため、保育者による手本によって幼時の柔らかな声帯に傷をつけることなく美しく歌うことができるよう注意するべきである。
合奏指導
幼児期の音楽活動の中で重要な役割を担うのがこの合奏であり、主に打楽器が使用される。楽器に触れるという活動は幼稚園入園がほぼ最初となる場合が多く、友達と一緒に合奏することや、楽器の分担奏及び交代の仕方などを幼児自身で互いに相談しあうといった行動は協力強調の良い経験であるとされている。これに対する指導の要点として、総合的指導の中で幼児がいかに楽しみ、楽器に触れ演奏することで自身の感情などからなる新たな表現を身につけることができるか、という点である。そのため、3歳児・4歳児・5歳児と年齢が上がるに伴い、楽器に慣れ親しむといった基礎的な指導から、幼児自身がさまざまな方法で工夫を凝らし表現していけるような応用的指導まで充分に考慮しつつ保育者は援助をするべきであると考えられる。また、合奏に使用する曲に関しても、さまざまな分野の曲を指導内容に取り入れることで幼児たちが興味を持てるような曲を演奏できるよう注意すべきであるといえる。
第4章 今後の音楽指導に対する保育者のあるべき姿
現代における幼児を取り巻く音楽的環境は、音楽機器の発達とともに大きく変化し曲に対する感情や表現方法を取っても、多種多様性に富んでいるといえる。このような中で、いかに保育者が幼児の中に潜在する音楽に対する情熱や感動を引き出し、なおかつ今後も音楽活動を続けていきたい、続けようと考えられるような指導を行っていくかが、今後の保育者のあるべき姿であると考える。
参考文献
石橋裕子他 「保育者・小学校教員のためのわかりやすい音楽表現入門」 北大路書房
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音楽2 1 福井 礼央