車体模型周りの流れと運動量の法則

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    1. 緒言
    車体形状は自動車の空力特性に大きく影響を及ぼすので,車体近傍の流れの挙動をよく把握しておく必要がある.そうでないと無駄な空気抵抗ができたり,車体の安定性が低下したりする.本実験では二次元車体模型を用い,マノメータによる模型表面の圧力分布計測,ピトー管による模型前後断面の流速分布の計測,及び表面タフト法による流れの可視化を行い,これらの原理や実験方法について理解する.また,物体表面の圧力分布より抗力,揚力が算出できることを確認し,さらに運動量の法則からも抗力が算出できる事を理解する.
    2. 理論
    2.1 マノメータの原理
    マノメータは,液体の自重による圧力と測定圧力とをつり合わせることにより,流体の圧力を測定する計測器である.図1において,基準圧力p0,測定圧力p,マノメータのヘッドh,指差液体の密度ρliq,空気の密度ρair,重力加速度gとすると,A点とB点の圧力は等しいことにより次式を得る.
              
    ここで,ρliq≫ρairを考慮すると次式となる.
                                    (1)
    式(1)より,マノメータのヘッドh,指差液体の密度ρliqおよび重力加速度gを知れば,測定圧と基準圧との差圧p-p0が得られる.
            
         図1 U字マノメータ             図2 ピトー静圧管
    2.2 ピトー静圧管の原理
     ピトー静圧管は,流体の運動エネルギを圧力差として取り出し流体の速度を測定する計測器で,図2のように二重の管から構成されている.内管は先端Bで開いており,内管と外管の間は先端Bで閉じており,側面Cに小孔が開けられている.ここでは空気の流速測定を考える.A点の流速v,A点の静圧は大気圧p0,B点の流速は零,B点の圧力pBとし,A点とB点との間でベルヌーイの式を適用すると次式を得る.
                
    よって
                                     (2)
    ここでC点の静圧は大気圧p0であるので,B点とC点との圧力差にマノメータの式(1)を適用すると次式となる.
               
    上式を式(2)に代入すると次式を得る.
                                      (3)
    式(3)より,マノメータのヘッドh,指差液体の密度ρliq,空気の密度pairおよび重力加速度gを知れば,気流の流速vが得られる.
    2.3 流れの可視化
    目では観察できない流れをなんらかの工夫で観察可能にする技術を流れの可視化という.流れの可視化は,流れを直感的に把握できることおよび比較的簡単に応用できることから,工学,工業の分野でも広く利用されている.このような流れの可視化手法としては,壁面トレース法,タフト法(タフトグリッド法・表面タフト法など),注入トレーサ法,化学反応トレーサ法,電気制御トレーサ法,光学的可視化法(マッハツェング・シュリーレン法など)がある.本実験で行う壁面タフト法は,物体表面にタフト(流れの挙動を観察するのに使う糸など)を貼り付け,物体表面の流れの方向,剥離域および不安定域などを可視化するものである.
    2.4 流体力による抗力,揚力
    図3のような二次元物体を考える.奥行き単位幅あたりに働く力は,物体表面の圧力pを物体表面Sに沿って積分することにより得られる.このとき,流れ方向に働く力を抗力D,流れと垂直方向に働く力を揚力Lとすると,これらは次式により与えられる.
                                     (4)
    (5)
           
    図3 二次元物体の流体力による抗力,揚力      図4 一様流中の物体周りの流れ
    2.5 運動量の法則
    図4に示す一様流中の物体まわりの流れを考える.物体のまわりに十分大きな検査面を考えるとき,運動量の法則は次のように表現される.
    「検査面を通って外側に輸送される単位時間あたりの運動量は検査面に含まれる流体部分に働く力の総和に等しい」
    これを数式にすると次式となる.
                                         (6)
    ここで,
    J : 単位時間に検査面を通って外へ出る運動量ベクトル
    G : 流体部分に働く力の総和
    である.
    以下で二次元物体まわりの単位幅あたりの運動量の法則の適用を考える.検査面ABB′A′を物体から十分に離して設定するとABとA′B′は平行でかつ流線とも平行に設定でき,さらにこの検査面上の静圧は大気圧に等しいと考えて良い.このとき,流れ方向の流速v,流れと垂直方向y,流体の密度ρとすると運動量ベクトルJは次式で与えられる.
                
    また,物体が流体から受ける抗力Dは次式となる.
    これらを式(6)に代入すると次式を得る.
       (7)
    ここで,物体の影響は物体後流のわずかな伴流と呼ばれる部分のみに現れることに注目する.伴流を包み込む流線に沿ってab,a′b′を設定し,検査面abb′a′について運動量の法則を適用すると次式を得る.
                          (8)
    断面aa′での流速は一様速度U0であり,また連続の式より,
    が成立するので,次式を得る.
                         (9)
    式(9)により,一様流の流速U0,物体後方の伴流部における流速分布,および流体の密度を知れば,二次元物体に働く抗力を算出することができる.
    3. 実験装置
    図5に実験装置の概略を示す.装置は風洞(送風口400×400 mm),送風機,三相モータ,二次元車体模型,圧力切換コック,ゲッチンゲン型マノメータ,ピトー静圧管,ベッツ型マノメータよりなる.三相モータのスイッチを入れることにより送風器から風洞部に空気が送られ,テストセクション部に乱れの少ない一様流が得られる.二次元車体模型には,模型中央断面上の表面に圧力測定孔が開けられており,さらに模型表面には流れの可視化のための表面タフトが貼られている.圧力測定孔はビニール管で圧力切換コックに連結され,ゲッチンゲン型マノメータ(アルコール)で模型表面の圧力が測定される.二次元車体模型前後の流速分布測定にはピトー静圧管が使用される.ピトー静圧管からの圧力はビニール管でベッツ型マノメータ(純水)に連結され,総圧と静圧の差を測定することにより流速が算出される.二次元車体模型はアクリル製であり,断面形状は図6のとおりである.模型の奥行き寸法は800 mmで,中央断面上に設定されている圧力測定の位置も図6(およびデータ・シート)に示されている.
    図5 実験装置概略
    図6 二次元車体模型断面図
    4. 実験方法
    4.1 物性値と代表値
    重力加速度はg=9.80665 [m/s2]とする.ベッツ型マノメータには純水が,またゲッチンゲン型マノメータにはアルコールが指差液体として使用されているので,マノメータにより圧力を測定するためにはこれらの指差液体の密度を知る必要がある(式(1)).ここでは,純水の密度はρAq=1000[kg/m3]とする.アルコールの密度ρAlは密度の検定グラフにより,アルコールの温度の関数として与えられる.
    ピトー静圧管により気流の流速を計算するためには,マノメータの指差液体の密度に加えて,空気の密度も知る必要がある(式(3)).ここでは空気を理想気体と考え,状態方程式より密度を算出する.気温T*=273.15 [K],気圧p*=760 [mmHg]での空気の密度はρ*=1.2932 [kg/m3],であることを用いれば,気温T[K],気圧pでの空気の密度ρair [kg/m3]は次式で与えられる.
                     [kg/m³] (10)
    空気の粘性係数の算定には の式を用いる.気温T*=273.15 [K]での粘性係数
    μ*1.724×10-5 [Pa・s],およびSl=110.4 [K]により,気温T [K]での空気の粘性係数μair [Pa・s] =は次式で与えられる.
                 [Pa・s] (11)空気の動粘度は定義よりνair=μair/ρair [m2/s]である.代表長さL0として,二次元車体模型の高さを選び,図6よりL0=0.09 [m]とする.
    代表速度U0には,ピトー静圧管による測定結果より,図7の断面①-①の流速の平均値とする.レイノルズ数Reは,定義よりRe=U0 L0/νairと計算される.
    図7 流速測定断面
    4.2 ピトー静圧管による流速分布の計測
    二次元車体模型前後断面における流速を調べるためピトー静圧管を用いる.測定は模型前面より前方30 [cm]の断面①-①と,模型後面より後方15 [cm]の断面②-②の2断面で行う(図7).模型の下面をy=0とし,y=-16 [cm]からy=16 [cm]まで2 [cm]間隔でピトー管を主流方向に向けて設定し,ベッツ型マノメータ(純水)でヘッドhAqを測定,データ・シートに記録する.式(3)を用いると流速vは次式により与えられる.
                                   (12)
    流速vは代表速度U0により無次元化しておく.
    4.3 表面タフト法による流れの可視化
     二次元車体模型の表面に貼り付けてある表面タフトの様子を各自スケッチする.このとき,特にタフトの方向と振れに注目して流れ場を観察する.
    4.4 模型表面圧力分布の計測
    二次元車体模型表面の圧力分布を調べるため,模型表面に...

    コメント1件

    hideaki0403 販売
    実験のレポートをアップしています。今回のような形式でほかのものも書いてあります。
    2008/10/22 23:26 (16年1ヶ月前)

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