本判決以前に政教分離違反かどうかが争われたものとして、津地鎮祭事件最高裁判決(最大判昭和52年7月13日)がある。この点、本判決は津地鎮祭事件最高裁判決の目的効果基準を用いているが、その判断において差異はないだろうか。本判決が従来の判例の枠内かどうかが問題となる。
この点、津地鎮祭事件最高裁判決では地鎮祭を、多数意見のように、「建築着工に際しての慣習化した社会的儀礼」という世俗化した行事、「工事の無事安全を願う社会の一般的慣習」と割り切ってしまうか、それとも、少数意見のように、習俗的行事化しているとはいえ、「極めて宗教的色彩の濃いもの」で、非宗教的行為とは到底言えないと解するかどうか、その性格付けが大きく結論を左右する決め手になっている。したがって、多数意見は目的効果基準を打ち出して、それを適用し判断したのであるが、「目的が世俗的である」という点で既に決着してしまっており、効果の点に関する判断は付けたしの観がある。
本判決においても、玉串料等を靖国神社に奉納する行為を「慣習化した社会的儀礼」に過ぎないものになっていると見るかどうか、という点がまさに結論を左右するものとなっている。したがって、「目的が宗教的意義を持つ」という点で既に決着しており、効果の点に関する判断は付けたしの観がある。
以上の点からすれば、本判決は津地鎮祭事件最高裁判決とその判断において差異はなく、矛盾もしていない。したがって、本判決は従来の判例の枠内であると考える。
一.愛媛玉串料訴訟(最大判平成9年4月2日)
1.事実の概要
愛媛県知事Yは、宗教法人靖国神社が挙行した春季または秋季の例大祭に際して、奉納する玉串料として
9回にわたり各5千円(計4万5千円)を、また靖国神社が挙行した「みたま祭」に際して、奉納する献灯
料として4回にわたり各7千円または8千円(計3万1千円)を、さらに宗教法人愛媛県護国神社の挙行し
た春季または秋期の慰霊大祭に際して、奉納する供物料として9回にわたり各1万円(計9万円)を、それ
ぞれ県の公金から支出した。
これに対し、住民らXは、上記支出を憲法20条3項、89条に反するとして、地方自治法242条の2
第1項4号に基づき、県に代位してYに損害賠償を請求した(住民訴訟)。
第一審(松山地判平成元年3月17日)は、本件支出は、その目的が宗教的意義を持つことは否定できず、
その効果も靖国神社または護国神社の宗教活動を援助、助長、促進するものであり、本件支出によって生ず
る県と靖国神社または護国神社との結びつきは、もはや相当とされる限度を超えるものであるから、憲法2
0条3項に反し、違憲であると判断した。
ところが、...