講義の中で、ワヤン・クリという人形芝居の映像を見た。独特の雰囲気を持った人形芝居はそれ自体がとても魅力的であったが、なぜテレビが普及した今でもこのような人形芝居を見る人は絶えないのだろうか。ここでは、ワヤン・クリというものの魅力について見ていく。
まず、ワヤンとは、ダランと呼ばれる人形使いあるいは語り手が物語を進行させる芸能の総称である。スクリーンを前に皮製の人形を使う「ワヤン・クリ」のほかに、木彫りの人形を使った人形芝居「ワヤン・ゴレ」、さらに布に描いた絵を前に物語を語る「ワヤン・ベベル」など、多種の形態があるがここでは、特にワヤン・クリについてみていく。
ワヤン・クリとは、インドネシアのジャワ島やバリ島で行われる、人形を用いた伝統的な影絵芝居、またそれに使われる操り人形のことである。ワヤンと言う言葉は、元々「影」を、クリは皮を意味するといわれ、ワヤン・クリはインドネシアのジャワ島を中心に、千年以上の歴史を持つ伝統芸能である。ジャワ諸王国の宮廷で育まれ、15~16世紀ごろには次第に民衆の中にまで広く普及し、インドネシアの人々の精神文化の核となった。芝居はヒンズー寺院での祭りなどで行われ、インドの古代叙事詩「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」などが主な演目である。
次に、ワヤン・クリの仕組みについてみていく。ワヤン・クリの上演時には、白いスクリーンを張り、その裏から、石油ランプを当てる。人形の影を映し出すスクリーンの手前にはバナナの幹が置かれ、たくさんの人形がそこに突き刺して並べられている。中央には山のような形をしたグヌンガンが立てられており、観客は石油ランプや人形の反対側から鑑賞する。スクリーンの裏では、ダランと呼ばれる一人の人形遣いが、語りをしたり効果音を出したりしながら、数々の人形をスクリーン間近で操る。ここで、ワヤン・クリという人形について簡単に説明すると、人形は牛の川でできており、部分的に細かく穴がうがってある。これにより人や動物の形は単に全体が影なのでなく、体の各部分の輪郭も表される。また、観客からは見えないが、人形は着色してある。これはスクリーンの裏側は、あの世であるとされ、あの世では色のついた美しい世界が、現世では白黒にしか見えない、ということを表すといわれている。人形には中心に一本の太い棒がついていて、下がとがっている。これにより、人形遣いが、スクリーンのすぐ手前にある座に突き刺し、人形が演出したままにしておくことができる。
ワヤン・クリを上演する上で重要となるのがダランと呼ばれる人形遣いである。ダランは通常、夜8時ごろから翌朝の明け方まで続く上演の間、ワヤンの世界を作り上げているすべての要素を支配する存在である。ダランは物語の各場面を描写した詩を朗唱し、そのほかにも地語りもする。そしてワヤンの上演の間、たくさんの人形を一人で操り、声色を変えてすべての登場人物の台詞を担当し、さらに、伴奏するガムランの演奏者に指示を与えながら合奏をリードする。ワヤンの上演は明け方に終わるが、ダランは上演の間、最初に座った場所を離れることなく一晩中の上演を一人で取り仕切る。様々な儀礼に伴う一晩中の上演を滞りなく終了させるためにダランは並外れた技術と精神力を身につける必要があるため、多くは、定期的な断食、墓地や聖地での瞑想などを通して、自己の内面の道を究める修行を行っている。また、優れたダランは、語りや人形操作のみならず、歌や音楽の演奏、踊りにも長けている。
さて、ここからはワヤン・クリの上演についてみていく。ワヤン・クリの上演は、夜8時ごろ、ガ
講義の中で、ワヤン・クリという人形芝居の映像を見た。独特の雰囲気を持った人形芝居はそれ自体がとても魅力的であったが、なぜテレビが普及した今でもこのような人形芝居を見る人は絶えないのだろうか。ここでは、ワヤン・クリというものの魅力について見ていく。
まず、ワヤンとは、ダランと呼ばれる人形使いあるいは語り手が物語を進行させる芸能の総称である。スクリーンを前に皮製の人形を使う「ワヤン・クリ」のほかに、木彫りの人形を使った人形芝居「ワヤン・ゴレ」、さらに布に描いた絵を前に物語を語る「ワヤン・ベベル」など、多種の形態があるがここでは、特にワヤン・クリについてみていく。
ワヤン・クリとは、インドネシアのジャワ島やバリ島で行われる、人形を用いた伝統的な影絵芝居、またそれに使われる操り人形のことである。ワヤンと言う言葉は、元々「影」を、クリは皮を意味するといわれ、ワヤン・クリはインドネシアのジャワ島を中心に、千年以上の歴史を持つ伝統芸能である。ジャワ諸王国の宮廷で育まれ、15~16世紀ごろには次第に民衆の中にまで広く普及し、インドネシアの人々の精神文化の核となった。芝居はヒンズー寺院での祭りなどで...