~科学技術の発達と法の意義~
法とは社会秩序維持のための規範である。わが国では、戦後日本国憲法が定められ、これを基盤として日本は機能してきた。日本国憲法において中心となっている理念は、第13条に記されている。「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」がその内容である。
しかしながら、幸福の追求が他者の幸福の追求を妨げる場合、ここに矛盾が生じる。この判断の基準として13条、または12条(自由・権利の保持の責任とその乱用の禁止)は公共の福祉という概念を提唱している。これは国民全ての権利を「公平に」尊重する必要があると解釈されている。この「公平」の調整のため、これまで法による様々な規制が行われてきた。
近年においては、科学技術の急速な進展のため、社会はプラス・マイナス両面にわたり多大な影響を受けてきた。これにより社会秩序が乱れるのを抑えるため、各種技術に対して対策を取る必要が出てきた。つまり新たな技術開発により現行の法体系では対応できなくなったのである。宇宙・原子力関連技術に代表されるような規模が大きい技術には、適切な法なり指針なりで規制しなくてはならない。これらの技術は大きなリスクを持ち得るからである。
リスクとは、危険が現実になった時の被害の大きさと危険が現実になる確率とを掛け合わせた概念である。これらの技術は、前者の値がその規模より大きいことが予想され、また開発当初であればその技術に対する知識・データが不十分であるため後者に関しては適当な評価ができないどころか全く予想がつかないこともあるだろう。それゆえリスクが高いと思われる技術であればあるほど、技術開発時に適切な法規制をすることが重要であり、新たに法・指針を導入する必要も出てくると考える。
1973年6月、これに該当する新たな技術開発が行われた。遺伝子組換え技術の誕生である。しかしながら遺伝子の組換えというのは、開発した研究者自身も到底結果を予見できるものではなく、非常に大きなリスクを持つものだと考えられた。例えば、ヒトにがんを作るウイルスの遺伝子がプラスミドに組み込まれ、それが大腸菌に移り、そしてその大腸菌が人々に感染したら、人にがんを引き起こすのではないかなどというリスクである。そのため、翌年には自主的な実験の一時中断(モラトリアム)を行い、さらにその翌年の1975年、アシロマ会議を開き実験を安全に行うための方策を検討した。これにより各国は自国のガイドラインを作ることが要請された。まず1976年7月、米国の国立衛生研究所(NIH)が「組換えDNA実験ガイドライン」を定め、日本もそれを受け1979年に「組換えDNA工業化指針」を定めた。これにより定められたガイドラインは、研究が進むにつれて、改定により徐々に緩和されてきた。
しかし、この指針であるが、届け出義務も独立の政府機関による審査・査察・処罰の制度もなく、研究者の自主的規制に依存する道徳的なものに過ぎなかった。それにも関わらずこの指針は緩和されていったのである。もちろん、市民からの反発はあり、アメリカの一部の州や日本でも一部の市で条例として罰則を設けるという動きもあった。しかし、それでも不十分なものであることには変わらず、国家単位での適切な法を制定する必要があった。フランス・ドイツ・イギリスは90年代初頭に罰則を設けた法を制定したが、日本においては「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律
~科学技術の発達と法の意義~
法とは社会秩序維持のための規範である。わが国では、戦後日本国憲法が定められ、これを基盤として日本は機能してきた。日本国憲法において中心となっている理念は、第13条に記されている。「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」がその内容である。
しかしながら、幸福の追求が他者の幸福の追求を妨げる場合、ここに矛盾が生じる。この判断の基準として13条、または12条(自由・権利の保持の責任とその乱用の禁止)は公共の福祉という概念を提唱している。これは国民全ての権利を「公平に」尊重する必要があると解釈されている。この「公平」の調整のため、これまで法による様々な規制が行われてきた。
近年においては、科学技術の急速な進展のため、社会はプラス・マイナス両面にわたり多大な影響を受けてきた。これにより社会秩序が乱れるのを抑えるため、各種技術に対して対策を取る必要が出てきた。つまり新たな技術開発により現行の法体系では対応できなくなったのである。宇宙・原子力関連...