医療分野における高分子(polymers)の応用
近年、合成ポリマーが治療薬として、薬物送達システム(drug delivery system:以下DDSと呼ぶ)での応用がますます興味をもたれている。ポリマーは、通常、長い循環時間と組織ターゲッティングによる潜在性を有する小分子薬と比べて、優秀な薬物動態を持つことで知られている。したがって、色々な形態で成ポリマーがDDSとして利用されている。例えば、合成ポリマー自身がDDSとして使用され、また小分子薬やタンパク質、核酸cのような生体高分子との組み合わせで使用されている。
この分野における高分子の応用は、一般的に「polymeric drug(高分子医薬)」や「nanomedicines」という表現されている。ここでの高分子医薬は、さらに以下の5つの項目に細分化できる。それは、①高分子医薬、②高分子‐薬物複合体、③高分子-タンパク質複合体、④高分子ミセル、そして最後に⑤ポリプレックス(polyplexes:高分子と核酸の複合薬)である。これら高分子医薬の領域をさらに拡張した分野としてnanomedicinesという表現が存在し、これらは高分子医薬に伴う分析ツール、イメージング技術や革新的DDS、治療学や組織再生・修復システム等を包括して扱われている。
もちろん、nanomedicinesの分野で扱われる材料(ポリマー)は、利用される範囲がすべてナノサイズとなっている。この分野で用いられる高分子は、それ自身が薬として用いられる場合と、ドラッグキャリヤー(drug carrier:薬物担体)として特定の細胞に薬物を運ぶ役割で用いられる場合の2種類の用途がある。どちらの用途においても、人体への安全性が求められる。特に、後者の場合で用いられるものは、薬物送達における全経路工程で安全性を示さなければならず、水溶性、非毒性、非免疫性の特徴を有するものでなければならない。
上記で述べた中でも、受動的用途(薬物担体)として扱う場合、外部の刺激によって薬物分子やタンパク質、核酸等を放出するような、より積極的な役割で取り扱われる。この受動的用途で用いられるものが、刺激応答性ポリマーと呼ばれる高分子類であり、高分子医薬の中でも特に注目されており、盛んに研究されている領域である。次の章で、このポリマーの概要を述べることにする。
刺激応答性ポリマー(stimuli-responsive polymers)について
刺激応答性ポリマーは、上記で述べたように、高分子医薬において受動的用途で扱われる高分子である。これらのポリマーは、外部刺激(例えば、pHや温度の変化)によって自身の性質が変化する高分子のことであり、生体系と良く似た反応を起こす。具体的には、構造、溶解度、疎水・親水性バランス、または生物活性分子(薬物分子)放出等の変化を生じる。また、生体系に応用するにあたって、これらの反応は人体の生物学的状況の中で起こらなければならず、多岐にわたる様々なアプローチが開発されている。
外部刺激の中で典型的なものは温度、pH、電場、光、磁場等があり、これらの刺激によって、高分子は溶解⇔沈殿、分解、薬物放出、水和状態の変化、膨張⇔崩壊、疎水性⇔親水性、形状変化、構造変化、そしてミセル形成等を引き起こす。一方で、外部刺激でもっとも重要であるものは、pH、温度、イオン強度、光、そして酸化還元電位である。今回は、この中のpHと温度について焦点をあてて述べることにする。また、これらの刺激で応答するポリマーについては、次節で述べることにする。
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医療分野における高分子(polymers)の応用
近年、合成ポリマーが治療薬として、薬物送達システム(drug delivery system:以下DDSと呼ぶ)での応用がますます興味をもたれている。ポリマーは、通常、長い循環時間と組織ターゲッティングによる潜在性を有する小分子薬と比べて、優秀な薬物動態を持つことで知られている。したがって、色々な形態で成ポリマーがDDSとして利用されている。例えば、合成ポリマー自身がDDSとして使用され、また小分子薬やタンパク質、核酸cのような生体高分子との組み合わせで使用されている。
この分野における高分子の応用は、一般的に「polymeric drug(高分子医薬)」や「nanomedicines」という表現されている。ここでの高分子医薬は、さらに以下の5つの項目に細分化できる。それは、①高分子医薬、②高分子‐薬物複合体、③高分子-タンパク質複合体、④高分子ミセル、そして最後に⑤ポリプレックス(polyplexes:高分子と核酸の複合薬)である。これら高分子医薬の領域をさらに拡張した分野としてnanomedicinesという表現が存在し、これらは高分子医薬に伴う分析ツール、イメージング技術や革新的DDS、治療学や組織再生・修復システム等を包括して扱われている。
もちろん、nanomedicinesの分野で扱われる材料(ポリマー)は、利用される範囲がすべてナノサイズとなっている。この分野で用いられる高分子は、それ自身が薬として用いられる場合と、ドラッグキャリヤー(drug carrier:薬物担体)として特定の細胞に薬物を運ぶ役割で用いられる場合の2種類の用途がある。どちらの用途においても、人体への安全性が求められる。特に、後者の場合で用いられるものは、薬物送達における全経路工程で安全性を示さなければならず、水溶性、非毒性、非免疫性の特徴を有するものでなければならない。
上記で述べた中でも、受動的用途(薬物担体)として扱う場合、外部の刺激によって薬物分子やタンパク質、核酸等を放出するような、より積極的な役割で取り扱われる。この受動的用途で用いられるものが、刺激応答性ポリマーと呼ばれる高分子類であり、高分子医薬の中でも特に注目されており、盛んに研究されている領域である。次の章で、このポリマーの概要を述べることにする。
刺激応答性ポリマー(stimuli-responsive polymers)について
刺激応答性ポリマーは、上記で述べたように、高分子医薬において受動的用途で扱われる高分子である。これらのポリマーは、外部刺激(例えば、pHや温度の変化)によって自身の性質が変化する高分子のことであり、生体系と良く似た反応を起こす。具体的には、構造、溶解度、疎水・親水性バランス、または生物活性分子(薬物分子)放出等の変化を生じる。また、生体系に応用するにあたって、これらの反応は人体の生物学的状況の中で起こらなければならず、多岐にわたる様々なアプローチが開発されている。
外部刺激の中で典型的なものは温度、pH、電場、光、磁場等があり、これらの刺激によって、高分子は溶解⇔沈殿、分解、薬物放出、水和状態の変化、膨張⇔崩壊、疎水性⇔親水性、形状変化、構造変化、そしてミセル形成等を引き起こす。一方で、外部刺激でもっとも重要であるものは、pH、温度、イオン強度、光、そして酸化還元電位である。今回は、この中のpHと温度について焦点をあてて述べることにする。また、これらの刺激で応答するポリマーについては、次節で述べることにする。
まず温度であるが、これに関しては温熱治療を除いて、ほとんどの場合温度を狭い範囲内で外部的に変化させる必要がある。一方で、pHは体内で変化する。例えば、胃は酸性(pH=2)であり、腸は塩基性(pH=5~8)である。また、それ以外にも異なった組織内でさらに微量な変化もある。特に、炎症や傷ついた組織(慢性外傷:pH値5.4~7.4の間)と同様に、特定の癌組織では、世間に出回っている7.4というpH値とは異なった値を示す。さらに、細胞内コンパートメントであるエンドソーム(pH6.5~5.0)、リソゾーム(pH4.5~5.0)そしてゴルジ体(pH6.4)もそれぞれpH値が異なる。このように、pHが特定の細胞組織や細胞内コンパートメントで様々に変化するので、直接pH反応性高分子を投与してその応答を利用できる。
2-1. 熱応答性ポリマー(thermo-responsive polymers)
熱応答性ポリマーとは、特定の温度で溶媒和状態の急激な変化を起こし、体積相遷移を示す高分子のことである。また、これ以外に水和ゲルも熱応答性材料として用いられている。ここで、体積相遷移は、①ファンデルワールス相互作用、②疎水性相互作用、イオン相互作用の変化を伴う水素結合、そして④イオン相互作用の引力の4つが主となる要因である。
一般的に、加熱で不溶性となる高分子は、LCST(lower critical solution temperature)反応を持つと呼ばれ、逆に溶性となるものをUCST(upper critical solution temperature)反応を持つと呼ばれている。
典型的なLCST性の高分子は、モノマーであるN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、N-ジエチルアクリルアミド(DEAM),メチルビニルエーテル(MVE)そしてN-ビニルカプロラクタム(NVCl)がベースとなっている。また、UCST性高分子では、アクリルアミド(AAm)とアクリル酸(AAc)の組み合わせがベースである。これらの熱応答性ポリマーで扱われる温度は、たいてい、室温から体温までの範囲である。
2-2. pH応答性ポリマー(pH-responsive polymers)
pH応答性ポリマーは、前述したように人体内部でpHに相違があることを直接利用できるため、様々な応用(pH変化に伴う高分子の立体構造変化を利用した薬物放出制御、陽イオン性ポリマーを用いた非ウイルス性遺伝子治療、標的癌への酸誘発薬物放出、エンドソーム分解性デリバリーへの両性高分子とポリアニオンの応用等)が研究・調査されている。
1例を挙げると、pKa(酸解離定数:値が小さいほど、酸性)が3~10の間でイオン化した高分子は、pH変化によってイオン状態が変化する物質を高分子構造に組み込むと、水和ゲルの膨潤挙動の変化や可溶性ポリマーの立体構造変化をもたらす。これらの反応は、例えば、カフェインのようなモデル化合物、インドメタシンのような薬物、あるいは、リソソームのような陽イオン性タンパク質の放出を制御するのに用いられている。また、これらの高分子で用いられている古典的モノマーとしては、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAAc)、無水マレイン酸(MA)、そしてN,N-メタクリル酸ジメチルアミノエチル(DMAEMA)がある。それ以外にも、リン酸誘導体を含むポリマーも報告されている。
刺激応答性における概念の拡張
上記で述べたような刺激応答性材料が、数多く研究・調査されている中で、さらに発展した刺激応答性材料も研究されている。
例えば、ミセルを用いた2元、多元系刺激応答性材料である。ミセルとは、「共重合体(copolymer)を親水基、親油基に分けてお互いを結合して得られる両親媒性物質」が溶媒に溶けた時に、ある濃度以上で親水基を外に、親油基を内にむけて会合するものを言う。ミセルに用いられる共重合体を操作することで、pHと温度の2つの刺激に応答するものが作製できる。
また、刺激応答性水和ゲルもその1つである。特に、熱応答性ユニットとしてPNIPAMを用いた熱感受性水和ゲルの研究が多くなされている。このゲルにLCST以上の温度にすると、生物活性分子を固定・吸着することができ、逆にLCST以下であると徐々に放出する。この技術は、例えば、欠陥無く回復させることができる網膜色素上皮細胞シートの移植に応用されるだろう。
総括
刺激応答性ポリマーについて述べてきたが、これらは、ドラッグデリバリーですぐれた利点を提供してくれる。今後、さらに扱うにあたって問題となる安全性を保ちながら優れた薬物動態を伴うドラッグデリバリーを目指していくことだろう。
ところが残念なことに、DDSがいつ、どこで、どのように、標的である細胞組織や細胞内コンパートメントに到達するのか立証するための基本的パラメータの理解があまり無いのが現状である。従って、多くの未解決問題を最も適したベクターや高分子治療を合成するのに理解する必要がある。
また、標的の細胞外癌細胞における応用では、僅かな刺激範囲で操作していることを示し、制限内で、理想的なon-off応答が望まれる。これには、応答性ポリマー合成を行なうにあたってさらなる努力が必要である。部位特異性タンパク質の継続的傾向と同様に、全ての反応サイトを知った上で単分散化した試料を目指すべきだろう。
また昨今では、このような中、デンドリマー合成のような比較的新しい合成策略や高分子化制御技術が目指すべきゴールへ到達する為に急速に確立されている。
最後に、このレビューの感想を述べたい。
刺激応答性ポリマーの分野は、材料設計という大きな分野では、私の専門としている冶金分野と同じであるが、反応や材質、更には環境も全く異なっていて、非常に難しく感じたが、それが逆に好奇心にもなった。特に、ミセルを用いたDDSに関して、目的の組織まで自動でたどり着き、その後、自ら薬物を放出する姿は、機械のロ...