1 ニッセイ基礎研 REPORT 2005.5
1.はじめに
2007年になると、いわゆる「団塊世代」が60
歳の定年を迎え始め、大量の退職者が発生する。
団塊世代とは一般的に1947年から49年生まれ
までの人のことをさすが、この世代の人口は
680万人(2004年時点)と前後の世代よりも突
出して多い
(注1)。このため、団塊世代の大量退
職は労働市場に急激な変化をもたらすことが指
摘されている。
2.すでに始まっている労働力人口の減少
(1)団塊世代の就業者は501万人
2007年以降の大量退職を考える前に、団塊世
代が現時点でどれくらい働いているのかを把握
する必要がある。しかし、このことを公表統計
から直接知ることはできない。「労働力調査」
(総務省統計局)では、年齢階級別の就業者数
が公表されているが、これは5歳刻みとなって
いる。たとえば、団塊世代は現時点(2004年)
で55~57歳だが、労働力調査では55~59歳とい
う区分になっており、この中には団塊世代とそ
れ以前の世代の両方が含まれてしまう。一方、
「国勢調査」(総務省統計局)では、各年齢ごと
の労働力状態が公表されているが、これは5年
に一度の調査である。
そこで、国勢調査の年齢ごとの労働力率、就
業率を用いて、労働力調査の5歳刻みのデータ
を1歳刻みに分割し、毎年の年齢ごとの労働力
人口、就業者数を求めた。直近の国勢調査は
2000年であるため、2001年以降も年齢ごとの労
働力率、就業率の形状が一定に保たれる(99年
以前については5年ごとの国勢調査の数値を線
形補間)という仮定を置いた推計値のため、数
値は幅を持って見る必要がある。
このような方法によって求められた団塊世代
の労働力人口、就業者数は、2004年時点でそれ
ぞれ521万人、501万人となった(図表-1)。
REPORT II
団塊世代の退職が労働市場に及ぼす影響
経済調査部門 斎藤 太郎
tsaito@nli-research.co.jp
図表-1 年齢別労働力人口(2004年時点)
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85以上
(万人)
団塊世代521万人
(歳)
(注)「国勢調査」「労働力調査」、「人口推計」(いずれも総務省統計局)
を用いた推計値
この世代の労働力人口のピークは40歳代半ば
であった1990年代前半の約600万人であり、こ
の時と比べるとすでに約80万人が労働市場から
ニッセイ基礎研 REPORT 2005.5 2
退出していることになる。これは、団塊世代が
50歳代後半にさしかかり、労働力率が徐々に低
下し始めているからである。
しかし、それにもかかわらず労働力人口の規
模は依然としてどの年代よりも大きく、労働力
人口全体に占める割合も約8%と高い。この世
代の影響力は依然として非常に大きなものとな
っている。
(2)増加する高齢層の退職者
団塊世代の大量退職は2007年以降だが、日本
全体の労働力人口はすでに99年以降6年連続で
減少している。2004年には6,642万人と、98年の
ピーク(6,793万人)から151万人(2.2%)も低
い水準にある。
のマイナス幅が人口要因のプラス幅を上回って
おり、人口動態面の要因がすでに労働力人口を
減少させる方向に働き始めていることが分かる。
また、年齢(各歳)別の労働力人口を用いて、
若年層の新規労働
1 ニッセイ基礎研 REPORT 2005.5
1.はじめに
2007年になると、いわゆる「団塊世代」が60
歳の定年を迎え始め、大量の退職者が発生する。
団塊世代とは一般的に1947年から49年生まれ
までの人のことをさすが、この世代の人口は
680万人(2004年時点)と前後の世代よりも突
出して多い
(注1)。このため、団塊世代の大量退
職は労働市場に急激な変化をもたらすことが指
摘されている。
2.すでに始まっている労働力人口の減少
(1)団塊世代の就業者は501万人
2007年以降の大量退職を考える前に、団塊世
代が現時点でどれくらい働いているのかを把握
する必要がある。しかし、このことを公表統計
から直接知ることはできない。「労働力調査」
(総務省統計局)では、年齢階級別の就業者数
が公表されているが、これは5歳刻みとなって
いる。たとえば、団塊世代は現時点(2004年)
で55~57歳だが、労働力調査では55~59歳とい
う区分になっており、この中には団塊世代とそ
れ以前の世代の両方が含まれてしまう。一方、
「国勢調査」(総務省統計局)では、各年齢ごと
の労働力状態が公表されているが、これは5年
に一度の調査である。
そこで、国勢調査の年齢ごとの労働力率、就
業率を用いて、労働力調査の5歳刻みのデータ
を1歳刻みに分割し、毎年の年齢ごとの労働力
人口、就業者数を求めた。直近の国勢調査は
2000年であるため、2001年以降も年齢ごとの労
働力率、就業率の形状が一定に保たれる(99年
以前については5年ごとの国勢調査の数値を線
形補間)という仮定を置いた推計値のため、数
値は幅を持って見る必要がある。
このような方法によって求められた団塊世代
の労働力人口、就業者数は、2004年時点でそれ
ぞれ521万人、501万人となった(図表-1)。
REPORT II
団塊世代の退職が労働市場に及ぼす影響
経済調査部門 斎藤 太郎
tsaito@nli-research.co.jp
図表-1 年齢別労働力人口(2004年時点)
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85以上
(万人)
団塊世代521万人
(歳)
(注)「国勢調査」「労働力調査」、「人口推計」(いずれも総務省統計局)
を用いた推計値
この世代の労働力人口のピークは40歳代半ば
であった1990年代前半の約600万人であり、こ
の時と比べるとすでに約80万人が労働市場から
ニッセイ基礎研 REPORT 2005.5 2
退出していることになる。これは、団塊世代が
50歳代後半にさしかかり、労働力率が徐々に低
下し始めているからである。
しかし、それにもかかわらず労働力人口の規
模は依然としてどの年代よりも大きく、労働力
人口全体に占める割合も約8%と高い。この世
代の影響力は依然として非常に大きなものとな
っている。
(2)増加する高齢層の退職者
団塊世代の大量退職は2007年以降だが、日本
全体の労働力人口はすでに99年以降6年連続で
減少している。2004年には6,642万人と、98年の
ピーク(6,793万人)から151万人(2.2%)も低
い水準にある。
のマイナス幅が人口要因のプラス幅を上回って
おり、人口動態面の要因がすでに労働力人口を
減少させる方向に働き始めていることが分かる。
また、年齢(各歳)別の労働力人口を用いて、
若年層の新規労働者数と高齢層の退職者数(こ
こでは労働市場から退出し非労働力化した人を
さす。したがって退職後に就業ないし失業状態
になった人は退職者に含まれない。以下同じ)
を見てみると
(注2)、若年の新規参入者は92年に
174万人でピークをつけた後、趨勢的に減少し
ており、2004年には118万人となった。一方、
高齢層の退職者数は90年頃までは100万人以下
の水準であったが、90年代前半以降、明確な増
加基調に転じ、2004年には135万人となった
(図表-3)。
99年以降、高齢層の退職者数が若年の新規労
働者を上回り始めている。この面からも、少
子・高齢化に伴う労働力人口の減少はすでに始
まっていると考えることができる。
図表-2 労働力人口の変化要因
-100
-50
0
50
100
150
84 86 88 90 92 94 96 98 2000 2002 2004
労働力率要因
年齢構成要因
人口要因
労働力人口増減・前年差
(年)
(万人)
(資料)総務省統計局「労働力調査」
労働力人口の変化は、①人口要因(15歳以上
人口の変化)、②年齢構成要因(高齢化の進展
はマイナス要因)、③労働力率要因(年齢階級
別の労働力率の変化)に分けられる(図表-2)。
人口(15歳以上)要因はプラスが続いている
が、その増加幅は、90年代前半までの年間50万
人超から2004年には11万人にまで縮小してい
る。
また、年齢構成要因は、高齢化の進展により
相対的に労働力率の低い高齢者の割合が高まっ
ていることから、恒常的に労働力人口の減少要
因となっている。2002年以降は、年齢構成要因
図表-3 若年新規労働者と高齢退職者数の推移
-100
-50
0
50
100
150
200
81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
若年新規労働者数①
高齢退職者数②
ネット(①-②)
(万人)
(年)
(注)総務省統計局「労働力調査」、「国勢調査」から推計
若年層については、少子化の進展により若年
人口自体がすでに減少し始めていること、雇用
環境の厳しさ、学卒無業者、NEETの増加など
に伴い労働力率が低下し続けていることの両方
がきいている。
高齢層の退職者数が増えている理由は、高齢
者自体が増えていることに加え、高齢者の労働
3 ニッセイ基礎研 REPORT 2005.5
力率が低下傾向にあることである。特に近年、
60歳以上の男性で労働力率の低下が目立つ(図
表-4)。これは就業者に占める自営業者の比
率が低下していることが影響していると考えら
れる。55~64歳の自営業比率は70年代前半には
30%台という水準にあったが、長期的に低下し
続けており、足もとでは15%程度となっている。
の予測を行った上で、65歳までの継続雇用が定
着した場合の影響を試算した。
(1)現行制度を前提とした場合
2005年以降の労働力人口は、2005年以降の男
女別、年齢別の労働力率が2004年(推計値)か
ら変わらないとして、国立社会保障・人口問題
研究所の推計人口(2002年1月、中位推計)に
掛け合わせることにより求めた
(注3)。
まず、団塊世代の退職は、早期退職制度の利
用などによりすでに一部で始まっており、足も
とでは年間10万人程度となっている。この水準
が2006年まで続いた後、2007年になると1947年
生まれの人が60歳の定年を迎えるため、一気に
32万人にまで増加する。2008、2009年には1948、
49年生まれの人も60歳となることから、退職者
数は40万人台となる(図表-5)。
図表-4 高齢者の労働力率(男性)
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70
95年
2000年
2004年
(歳)
(注)「国勢調査」、「労働力調査」から推計
自営業の人には定年がないため、健康状態に
問題がなければ年齢と関係なく働き続けること
が可能である。これに対して雇用者の場合、ほ
とんどの企業で60歳が定年となっており、早期
退職制度の利用によって60歳未満で退職する人
も少なくない。このため、雇用者比率の高まり
は、就業者全体としては引退年齢が早まること
につながり、高齢者の労働力率の低下要因とな
っている。
3.団塊世代の退職と労働力人口
今後の労働力人口の動向を占う上で、考えて
おかなければならないのは、2004年12月に施行
された「改正高年齢者雇用安定法」の影響であ
る。従来は、企業が定年を定める場合、60歳を
下回ることが禁止されていたが、2006年度以降、
段階的に65歳までの雇用機会の確保が義務付け
られることとなった。
ここでは、まず60歳定年が中心となっている
現行の雇用制度が維持された場合の労働力人口
図表-5 高齢層の退職者数(世代別)
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
団塊世代以降(1950年生まれ~)
団塊世代(1947~49年生まれ)
団塊世代以前(~1946年生まれ)
(万人)
(年)
(注)高齢層の退職者数は、50歳以上で労働市場から退出し非労働力化
した人の数
04年までは実績値に基づく推計値、05年以降は予測値
団塊世代の退職者数は、2007年に一気に増加
するが、高齢者全体の退職者数は2006年と2007
年の間に大きな断層があるわけではなく、139
万人から145万人へと6万人増えるにすぎず、
その後も1...