行動ファイナンス理論についての考察
証券価格の形成、市場の動きに基づく分析モデルとして、最も基本的なものは、資本資産評価モデル(CAPM)やポートフォリオ理論などである。それらの一連の理論体系は、現代のポートフォリオ理論(MPT)に大きな影響を与え、学術的にも実務的にも重視されてきた。それらの理論は、市場環境の動きによる証券、金融商品の動きや、様々な市場現象を、定量的に、厳格な数学的に説明しようと試みてきたが、しかし、多くの市場の現象のなかには説明できないものが大勢存在しているため、従来の伝統的なファイナンス理論の限界が多くの学者たちに認識され、それを機に、伝統ファイナンス理論から、いくつかの新理論が発展してきた。
*出所:俊野雅司「証券市場と行動ファイナンス」東洋経済新報社,2004
そのなかで、ひとつ注目を浴びたのは、行動ファイナンス理論であった。行動ファイナンス論は、客観的なデータを用いて金融市場の現象を分析する伝統的ファイナンス論と異なって、投資家は人間であることに注目し、人間の心理、行動とその限界などに基づき、
金融現象を分析する理論である。よって、行動ファイナンス論は、人間という生き物の主観性を分析に取り入れることによって、その分析の客観性が高められるということもいえるだろうと私は考える。
本文の目的としては、まず行動ファイナンス論の主な内容において説明し、そして、この理論の限界などについて議論するとのようなものである。
人間の行動、心理に基づく行動ファイナンス理論では、まず、投資家たちの投資決定(意思決定)に影響を与える人間の心理、行動は、どのようなものなのかについて説明する必要がある。そのような心理、行動を影響するものは、人間という生き物の本性の一部であり、あらゆる人間に存在すると考えられる。そのような本性があるため、人間の行動は常に本性から影響を受けており、つまり、本性の受け皿として、必ず本性を反映する行動が存在する。金融市場のなかの投資家を例えば、投資家には、心理的なもの(人間の本性)があって、それによって、投資家がどの金融商品に投資するか、しないか、あるいは、どれほど投資するかなどは、投資家それぞれの心理(本性)によって違ってくる。ここで、心理と行動という二つのものについて具体的に説明する。
(Ⅰ)心理
ここでは、「心理」が投資家の行動を影響するものであり、行動ファイナンス理論のなかでは、投資家の行動、特に失敗した行動を起こした「心理」を「歪みの源泉」と呼ばれる。本文でも「歪みの源泉」と援用し、金融投資において人間の「歪みの源泉」には主な次のようなものである。
*「歪みの源泉」
・記憶の不正確性
・情報の選別的認識 限定合理性
・判断の不正確性
・自信過剰
・後悔の回避 感情的要因
・その他
―時間的制約
―ムード
―認知不協和の回避 社会的要因
Ⅰ-1 限定合理性
限定合理性は、Simon(1955)によって提示された概念で、伝統的ファイナンス理論が想定する合理性の水準を実際の投資家は備えていないことを意味する。特に、この概念の下に、記憶の不正確性、情報の選別的認識、判断の不正確性という三つが含まれている。
Ⅰ-1-1 記憶の不正確性
意思決定を行う際に、新しい情報を収集するまでもなく、過去の経験や記憶だけに頼って最終判断をしてしまうことも少なくない。しかし、人間の記憶能
行動ファイナンス理論についての考察
証券価格の形成、市場の動きに基づく分析モデルとして、最も基本的なものは、資本資産評価モデル(CAPM)やポートフォリオ理論などである。それらの一連の理論体系は、現代のポートフォリオ理論(MPT)に大きな影響を与え、学術的にも実務的にも重視されてきた。それらの理論は、市場環境の動きによる証券、金融商品の動きや、様々な市場現象を、定量的に、厳格な数学的に説明しようと試みてきたが、しかし、多くの市場の現象のなかには説明できないものが大勢存在しているため、従来の伝統的なファイナンス理論の限界が多くの学者たちに認識され、それを機に、伝統ファイナンス理論から、いくつかの新理論が発展してきた。
*出所:俊野雅司「証券市場と行動ファイナンス」東洋経済新報社,2004
そのなかで、ひとつ注目を浴びたのは、行動ファイナンス理論であった。行動ファイナンス論は、客観的なデータを用いて金融市場の現象を分析する伝統的ファイナンス論と異なって、投資家は人間であることに注目し、人間の心理、行動とその限界などに基づき、
金融現象を分析する理...