今回の問題を考察する前に、同様に政教分離の原則が問題となった事例がある。まず、津地鎮祭事件*1は三重県津市の市長が、公共施設の建設起工式を神式の地鎮祭として実施し、その費用に公金を充てたことについて、政教分離の原則に反するとして市議会員が市長に損害賠償を請求したものである。第一審判決は本件起工式を「宗教的な行事というより習俗的行事」として合憲の判断を下したが、第二審判決は宗教的行事として違憲判決を下した。最高裁は、国家と宗教の関わり合いを完全に断つことは不可能であり、それは寺社の文化財に対する補助金交付などの存在からも明らかであるとした。その上で、政教分離原則により禁止される「宗教的活動」とは、宗教の関わり合いがわが国の社会的・文化的諸条件に照らし信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で、「相当とされる程度を超えるもの」、つまり「行為の目的が宗教的意義をもちその効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉等になるような行為」に限られるとし、その判断は「外面的側面にとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者の当該行為を行うについての意図・目的及び宗教的意識、一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなくてはならない」とした。
1(2)「首相の靖国参拝は憲法違反か」
8 月 13 日、小泉首相の靖国神社参拝が予定されていた 8 月 15 日より前倒しする形で
行われた。突然の参拝決定に当日の靖国神社周辺は騒然とし、上空には報道各社のヘリ
コプターが何機も飛び交い、境内では 1000 人を超える参拝客や参拝賛成・反対派の各
団体、警察官・機動隊員でひしめきあった。
今回の靖国神社参拝問題の中で、問題となったことの一つに、それが政教分離を定め
た日本国憲法に違反するかどうかということである。
政経分離の原則を定めた条文として、日本国憲法第 20 条第 3 項「国及びその機関は、
宗教教育その他いかなる宗教活動もしてはならない。」と、同第 89 条「公金その他の公
の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配
に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供し
てはならない。」が挙げられる。これらを見ても分かるように、宗教の国教化を防ぎ、
国民に対する特定の宗教の強制という事態が起こらないように、国家と宗教の関係を断
絶しようというのが政教分離の原...