日本の福祉問題

閲覧数5,641
ダウンロード数30
履歴確認

    • ページ数 : 5ページ
    • 全体公開

    資料紹介

    日本の福祉問題
    提供機関 : 立命館大学
    提供機関 URL : http://www.ritsumei.ac.jp/acd/ac/kyomu/koudai/kikaku/kensho04/kensho_j/2003/ronbun12.html
    皆さんはこんな事件があったことを知っていただろうか。2年前の2月。まだ暖かくならないこの時期に、ある老夫婦がその一生をとても哀れな形で終えた。
    大阪府の無職男性(79)方で、男性と妻(74)が死亡しているのを近所の人の通報で駆け付けた警察が見付けた。遺体の状況などから、男性が先に病死し、重い痴呆症だった妻が食事を取れずに衰弱死したらしい。夫婦は二人暮しで、男性が妻を介護していたという。
    警察の調べでは、男性は死後1週間。肺結核を患っていたといい、病状が悪化して死亡したとみられる。妻は死後4〜5日。数年前から重度の痴呆症で、男性が身の回りを世話していたという。男性は寝室でうつぶせに、妻は玄関口で横向きに倒れていた。部屋は室内から鍵が掛かっていた。
    この夫婦は市が行なっている福祉サービスを何も利用していなかったという。
    また、今年の5月佐賀では、老夫婦が「死」を選んだニュースが新聞に掲載された。
    この夫婦も夫(84)が、妻(80)を介護していた。そして、介護に疲れた末、心中を決意。二人は、仏壇を拝み、焼酎で別れの杯を交わしたあと、自宅近くの川にむかった。夫は、妻の車椅子に自分の体を縛り付けて、川に飛び込んだ。しかし、夫は、死にきれずに承諾殺人の罪で逮捕された。
    最近こうした悲惨な事件が次から次に起こっている。実際、たくさんの高齢者が孤独死に追いやられ誰にも看取られる事無く亡くなられてしまったり、家族が介護しなければという義務から介護ノイローゼになって人を殺してしまうなどということが多い。そこまで人を追い詰めてしまう介護とはいったい何なのかと考えさせられる。
    私の祖父も寝た切りで祖母が介護していた。このような事件は他人ごとではない。
    祖父を介護していたのは70歳を超えた祖母独りだ。祖父母は二人暮し。私の家は典型的な核家族で、私の家から祖父母の家まで車で3時間はかかる。
    介護と簡単に言うが実際にやってみると、本当に大変な事である。いちばん大変なのが食事と排泄。と、言うより、食事と排泄のとき以外祖父はずっと隣の部屋のベッドで寝ていた。
    食事のときは祖父の両脇に手を入れて起き上がらせてベッドの端に枕などを挟んで楽な姿勢になってもらう。身長180近くある祖父を起き上がらせるのは、いくら祖父が痩せた身体でも大の大人二人がかりでやっと持ち上げることができる程重労働である。
    排泄はもちろん尿瓶ですませる。尿瓶をもってベッドの横にいき、布団をめくり祖父のズボンを下げる。この時祖父は、お尻に床ずれができていたからそれに当たらないように軽く身体を持ち上げてズボンを下げるのである。上げるのも同じ作業を繰り返す。
    一見簡単な作業に思えるが相手は寝た切りで動くことができないので、全てこちらがやらなければいけないからかなりの重労働である。しかも、ベッドの高さは祖母の腰まであり結構高い。腰の曲がった、背の低い祖母が独りでやるのは、不可能に近い。
    しかし、なぜ祖母や前述の老人も介護をたった独りでやらざるをえないのか。
    その原因は、ひとえに核家族が増えてきたことにある。昔は、長男が必ず家を次いで、両親と同居していたが、今は、長男であっても両親と同居しない家庭が多い。そうるすと、必然的に老いた夫婦が互いに介護し合わなければいけない状況がでてくる。

    資料の原本内容

    日本の福祉問題
    提供機関 : 立命館大学
    提供機関 URL : http://www.ritsumei.ac.jp/acd/ac/kyomu/koudai/kikaku/kensho04/kensho_j/2003/ronbun12.html
    皆さんはこんな事件があったことを知っていただろうか。2年前の2月。まだ暖かくならないこの時期に、ある老夫婦がその一生をとても哀れな形で終えた。
    大阪府の無職男性(79)方で、男性と妻(74)が死亡しているのを近所の人の通報で駆け付けた警察が見付けた。遺体の状況などから、男性が先に病死し、重い痴呆症だった妻が食事を取れずに衰弱死したらしい。夫婦は二人暮しで、男性が妻を介護していたという。
    警察の調べでは、男性は死後1週間。肺結核を患っていたといい、病状が悪化して死亡したとみられる。妻は死後4〜5日。数年前から重度の痴呆症で、男性が身の回りを世話していたという。男性は寝室でうつぶせに、妻は玄関口で横向きに倒れていた。部屋は室内から鍵が掛かっていた。
    この夫婦は市が行なっている福祉サービスを何も利用していなかったという。
    また、今年の5月佐賀では、老夫婦が「死」を選んだニュースが新聞に掲載された。
    この夫婦も夫(84)が、妻(80)を介護していた。そして、介護に疲れた末、心中を決意。二人は、仏壇を拝み、焼酎で別れの杯を交わしたあと、自宅近くの川にむかった。夫は、妻の車椅子に自分の体を縛り付けて、川に飛び込んだ。しかし、夫は、死にきれずに承諾殺人の罪で逮捕された。
    最近こうした悲惨な事件が次から次に起こっている。実際、たくさんの高齢者が孤独死に追いやられ誰にも看取られる事無く亡くなられてしまったり、家族が介護しなければという義務から介護ノイローゼになって人を殺してしまうなどということが多い。そこまで人を追い詰めてしまう介護とはいったい何なのかと考えさせられる。
    私の祖父も寝た切りで祖母が介護していた。このような事件は他人ごとではない。
    祖父を介護していたのは70歳を超えた祖母独りだ。祖父母は二人暮し。私の家は典型的な核家族で、私の家から祖父母の家まで車で3時間はかかる。
    介護と簡単に言うが実際にやってみると、本当に大変な事である。いちばん大変なのが食事と排泄。と、言うより、食事と排泄のとき以外祖父はずっと隣の部屋のベッドで寝ていた。
    食事のときは祖父の両脇に手を入れて起き上がらせてベッドの端に枕などを挟んで楽な姿勢になってもらう。身長180近くある祖父を起き上がらせるのは、いくら祖父が痩せた身体でも大の大人二人がかりでやっと持ち上げることができる程重労働である。
    排泄はもちろん尿瓶ですませる。尿瓶をもってベッドの横にいき、布団をめくり祖父のズボンを下げる。この時祖父は、お尻に床ずれができていたからそれに当たらないように軽く身体を持ち上げてズボンを下げるのである。上げるのも同じ作業を繰り返す。
    一見簡単な作業に思えるが相手は寝た切りで動くことができないので、全てこちらがやらなければいけないからかなりの重労働である。しかも、ベッドの高さは祖母の腰まであり結構高い。腰の曲がった、背の低い祖母が独りでやるのは、不可能に近い。
    しかし、なぜ祖母や前述の老人も介護をたった独りでやらざるをえないのか。
    その原因は、ひとえに核家族が増えてきたことにある。昔は、長男が必ず家を次いで、両親と同居していたが、今は、長男であっても両親と同居しない家庭が多い。そうるすと、必然的に老いた夫婦が互いに介護し合わなければいけない状況がでてくる。
    高齢化、核家族という現象がこのような事件の引き金になっている事は間違いない。
    どの事件にも共通していることは、夫婦が「老々介護」であったことだ。
    そして次に、地方で行なわれる福祉サービスを十分に受けていなかったことがある。このような事件の背後には日本の福祉政策の遅れもあるのではないだろうか。
    そこで、大阪府高槻市が実際に行なっている介護サービスについて調べてみた。すると、介護保険で受けられるサービスから在宅サービス、施設サービス、介護保険以外のサービスなど沢山のサービスがあることが分かった。それと同じくして、高齢者・障害者の相談窓口も決して少なくはなかった。
    そこで、前述の老人にあてはめて、この夫婦が受けられるサービスを考えてみると、まず、介護保険に入ってサービスを受ける事ができる。妻(74)は重度の痴呆症であったことと、夫が死んだことにより食事を取れずに衰弱死していることから、最低でも要介護認定1以上が当てはまると考えられる。
    仮に、夫が要介護認定の申請(本人や家族が指定居住介護支援業者への申請代行の依頼。または市に直接、介護保険被保険証・申請書・主治医意見書・老人保健法医療受給者証・健康保険証を提出)をして、市の訪問調査、審査・判定を経て、要介護認定1が認められたと仮定すると、妻は月16,580円で在宅サービス(自宅で利用できるサービス)を受けることができる。例えば、訪問介護(ホームヘルパー)・訪問入浴介護・訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅療養管理指導が受けられるし、日帰りで通うサービス(デイサービス)なども受けることができる。他に、自宅で介護を受けることが難しい場合には、短期または長期に福祉施設(特別養護老人ホーム)に入所する施設サービスも受けることができたのだ。
    そして、介護保険サービス以外にも高槻市では、軽度生活援助事業(おおむね65歳以上の独り暮らしの高齢者などに、軽易な日常生活上の援助を行なうことにより要介護状態への進行を防止する。介護保険サービスを受けている方も対象。利用料の一割負担)、生活管理指導員派遣事業(自立と認定される高齢者に基本的生活習慣を取得してもらうために、日常生活・家事・対人関係の構築のための支援・指導、関係機関との連絡調整をする。利用料の一割負担)、生活管理指導短期宿泊事業(自立と認定されるおおむね65歳以上の高齢者等で基本的生活習慣に不安がある方に、病気ではない体調不良に陥った場合などに、養護老人ホームに一時的に宿泊し、生活習慣などの指導を行なうとともに体調調整を図る。利用料の一割負担)、配食サービス事業(おおむね65歳以上の調理困難な高齢者などに栄養バランスの取れた夕食を、居宅に訪問して定期的に提供し、併せて安否を確認し、健康状態に異常があれば関係機関への連絡などを行なう。実費相当分負担)などのサービスを行なっていた。ここでこの妻が受けることができたサービスは、配食サービスである。
    しかし、なぜこの夫婦はこのようなサービスがあるにもかかわらず、受けようとしなかったのか。
    その答えはこうだろう。夫婦といっても、実際は夫(79)だけで全ての生活を切り盛りしていた。そうなると、この夫がこのようなサービスがあることを認識していたかということに疑問がもたれる。79歳という高齢であること、妻の介護に付きっきりであったことから、この夫はこのようなサービスがあることを知る術がなかっただろうし、介護は家族がして当然だと思っていたに違いない。
    事実、高槻市もこのようなサービスがあることの市民への公の告知が足りていない。だから、この夫はサービスがあったことを十分に知らなかったと推測される。
    この夫がこのようなサービスがあるのを知らなかったとすれば、高槻市に住んで、税金も年金も払ってきたのに、市はサービスの告知を十分にせずに、とても無責任である。実際はこの夫のように、サービスがあることを知らない人が大半なのではないか。
    なぜなら、市民には福祉に関する説明が十分になされていないからだ。私の町でもそんな公告や説明を受けた事はまったくない。これが、今の福祉の現実である。施設や設備はある程度整っているがそれを市民は分かっていない。十分な説明をしない事に市は何のメリットがあるのか。
    また、なんらかの方法で市が行なっている福祉サービスを知ったとしても、サービスそのものに問題がある場合もある。
    佐賀の老夫婦のケースは、夫(要介護1)が妻(要介護4)を介護していた典型的な老々介護の夫婦だ。
    この夫婦が心中した理由は、詳しく調べてみると介護に疲れたというだけではなかった。というのも、この二人が利用していた介護サービスの自己負担額をみてみると20〜30万円にもなっていたからだ。
    65歳以上の人がもらえる年金の平均は月12〜15万円である。二人にどれくらいの額の貯金があり、どのような暮らしをしていたかは定かではないが、常識から考えてかなり厳しい負担が掛かっていたことは明らかである。
    では、どのようなサービスを利用すれば自己負担額が20万円を超えるのか。佐賀県の実際のデータをもとに計算してみた。
    妻は介護保険に入っていて在宅サービスを受けていた。要介護4の妻が介護保険で支払わなければいけない料金は月30,600円。そして、一週間にホームヘルプ(ホームヘルパーが家庭を訪問し食事、入浴、排泄等の「身体介助」を行なう。身体介護4,020円)を2回、訪問入浴(12,500円一回につき)を3回。訪問看護(4,250円)を1回。訪問リハビリテーション(5,500円一日につき)を2回。デイケア(介護老人保険施設や医療機関などに通い、理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションをうける。6,940円)を1回。デイサービス(日帰り介護施設などに通い、食事、入浴の提供をうける。6,450円)を1回受けると。妻だけで月185,040円を支払わなければならない。
    確かに、人間が快適に生きていくためには必要なサービスだろう。事実この...

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。