文学のレポートで、芥川龍之介『奉教人の死』について論じています。
字数は全てで1825字程度です。
1 問題の所在
『奉教人の死』(2001)の巻末註で芥川は、物語が長崎耶蘇会出版『れげんだ・おうれあ』 下巻二章を翻案したものだと記す。しかし後年の随筆「風変りな作品に就いて」(1971)で、 その書物は実在せず、作品は自らの創作だったと明かした。しかも『黄金伝説 (Legenda Aurea)』所収の「聖マリナ」伝と『奉教人の死』の情節はきわめて近似している。
すなわち、芥川は『奉教人の死』、架空の『れげんだ・おうれあ』、「聖マリナ」伝、『黄金伝 説』という四項関係を意図的に宙づりにし、読者に「『奉教人の死』は『れげんだ・おうれ あ』の翻案である」という表向きの説明を与えながら、実質的に...