目次
公法系
憲法(J)-2022年度 課題レポート 合格1
憲法(J)-2022年度 第Ⅳ回科目試験(代替レポート) S評価15
憲法-2023年度夏期スクーリング 小テスト(再現答案) S評価19
民事系
民法総論-2022年度・2023年度・2024年度 課題レポート 合格21
民法総論-2023年度 第Ⅲ回科目試験(再現答案) S評価35
物権法-2022年度・2023年度・2024年度 課題レポート 合格39
物権法-2022年度 第Ⅳ回科目試験(代替レポート) S評価51
債権総論-2022年度 課題レポート 合格53
債権総論-2022年度 第Ⅱ回科目試験(代替レポート) S評価64
債権各論-2022年度・2023年度・2024年度 課題レポート 合格74
債権各論-2022年度 第Ⅲ回科目試験(代替レポート) A評価90
商法総則・商行為法-2021年度 課題レポート 合格95
民事訴訟法-2022年度 課題レポート 合格100
民事訴訟法-2023年度 夏期スクーリング 最終試験(再現答案) S評価107
刑事系
刑法総論-2022年度 課題レポート 合格112
刑法各論-2022年度 課題レポート 合格120
刑法各論-2022年度 第Ⅲ回科目試験(代替レポート) D評価128
刑法各論-2023年度 第Ⅰ回科目試験(再現答案) A評価135
E-刑法-2022年度Eスクーリング レポート S評価137
E-刑法-2022年度Eスクーリング第Ⅳ回科目試験(代替レポート) S評価140
刑事訴訟法-2022年度夏期スクーリング レポート S評価146
発展科目
労働法(J)-2022年度 課題レポート 合格149
労働法(J)-2022年度 第Ⅲ回科目試験(代替レポート) A評価157
医事法-2023年度夏期スクーリング レポート① S評価163
医事法-2023年度夏期スクーリング レポート② S評価165
医事法-2023年度夏期スクーリング 最終試験 S評価167
憲法(J)-2022年度 課題レポート 合格
第1 7.1閣議決定による自衛権発動3要件の変更
1.はじめに
1972年10月14日の参議院決算委員会で政府が提出した資料「集団的自衛権と憲法との関係」に示された政府見解(以下、「昭和47年政府見解」という。)において、政府は、日本国は国際法上、集団的自衛権 を有するが、国権の発動として集団的自衛権を行使することは、憲法の容認する自衛の措置の限界を超えるので、許されないとする立場を示していた。
しかし、2014年7月1日の「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定(以下、「7.1閣議決定」という。)において、政府は、「パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る」ことを理由に、憲法9条の解釈を変更し、(限定的 ではあるが、)集団的自衛権の行使は、昭和47年政府見解で示された基本的な論理に基づく自衛の措置として、憲法上許容されるとした。
そして、2015年5月15日、政府は、上記決定に基づいて、「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」(以下、「平和安全法制整備法案」という。)及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案」(以下、「国際平和支援法案」という。)を国会に提出し、限定的な集団的自衛権の行使を法制化した(→課題2で検討)。
本レポートでは、まず、憲法9条の政府見解と自衛権発動3要件(以下、「旧3要件」という。)の関係を整理した上で、課題内容を検討することにする。
2.憲法9条の政府見解と旧3要件の関係
(1)憲法9条1項 -1項限定放棄説
憲法9条1項について、政府は、「国際紛争を解決する手段」という文言が1928年のパリ不戦条約1条 に由来するものであるとの理解に基づいて、侵略のための戦争・武力の行使・武力による威嚇(以下、「戦争等」という)のみを放棄し、自衛のための戦争等は放棄されていないと解している(1項限定放棄説 )。
(2)憲法9条2項前段
ア.戦力不保持の意義 -戦力全面不保持説(2項全面放棄説)
憲法9条2項前段について、政府は、「前項の目的」は戦争放棄規定が設けられるに至った目的の説明にとどまり、「前項の目的を達するため」という文言に戦力不保持の範囲を限定する意味はないとの理解に基づいて、自衛目的も含む一切の「戦力」の保持が禁止されると解している(戦力全面不保持説・2項全面放棄説)。
したがって、政府見解によると、憲法9条1項は自衛のための戦争等を放棄していないが、憲法9条2項前段によって一切の「戦力」の保持が禁止される結果、日本国は自衛目的を含む全ての戦争等を行うことができないとなる(遂行不能説)。
イ.「戦力」の意義-自衛のための必要最小限度の実力を超える実力説(自衛力説)
しかし、憲法9条2項前段の「戦力」の意義について、政府は、自衛のための必要最小限度の実力(=自衛力)を超える実力と解している(自衛のための必要最小限度の実力を超える実力説・自衛力説)。
したがって、政府見解によると、自衛のための必要最小限度の実力は、憲法9条2項前段が保持を禁止する「戦力」に該当しないので、憲法上、自衛のための必要最小限度の実力の保持は認められることになる。
上記見解の論拠は、
① (個別的)自衛権とは、外国からの急迫又は現実の違法な侵害に対して、自国を防衛するために必要な一定の実力を行使する国家の権利であり、国際法上、主権国家(独立国家)であれば、当然に自衛権を有すると解され、日本国も自衛権を有する。国連憲章51条も個別的自衛権 として認めている。
② 自衛権は主権国家固有の権利であるから、憲法によっても放棄できない。
③ 自衛権は憲法によっても放棄できない権利なので、自衛権行使のために必要な最小限度の実力(=自衛力)を保持することは、憲法9条2項との関係でも許される。
④ したがって、憲法9条2項が保持を禁止する「戦力」に、自衛権に基づく自衛のための必要最小限度の実力は含まれない。
⑤ そして、自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つための不可欠の機関であって、日本国を防衛するための必要最小限度の実力組織であるから、憲法9条2項が保持を禁止する「戦力」に該当せず、合憲である。
というものである。
(3)旧3要件の内容
しかし、平和主義を基本原則とする憲法が、自衛権の行使を無制限に認めているとは解されない。
そこで、政府は、憲法9条の下でも、
① 我が国に対する武力攻撃(=急迫不正の侵害)が発生したこと(武力攻撃事態)
② ①を排除するために他の適当な手段がないこと
③ 必要最小限度の実力行使にとどまること
の3要件を充たす場合に限り、例外的に自衛権の行使が許容されると解している。
なお、上記3要件において、「我が国に対する武力攻撃(=急迫不正の侵害)が発生したこと」が要求されているので、例外的に許容される自衛権の行使は、個別的自衛権の行使に限られると理解されていた。
(4)補論-憲法9条2項後段(全面的な交戦権の否認)
憲法9条2項後段の「交戦権」の意義について、政府は、国際法上、交戦当事国に認められる諸権利の総称(敵国の兵力・軍事施設を殺傷・破壊、中立国船舶の臨検、敵性船舶を拿捕、敵国領土の占領等)と解している。
そして、憲法9条2項後段について、政府は、憲法9条2項前段の「前項の目的を達するため」という文言は交戦権の否認に係らないとの理解に基づいて、全面的に交戦権が否認されていると解している。
ただし、政府は、日本国は国際法上、自衛権を有しているので、自衛権に基づく自衛のための必要最小限度の実力行使として相手国の兵力の殺傷及び破壊等を行うことは、交戦権の行使として相手国の兵力の殺傷及び破壊等を行うことと別の観念のものであり、憲法上許されると説明している。つまり、政府は、日本国が「交戦権」を有していなくても、自衛権に基づく自衛のための必要最小限度の実力行使は制約されないと理解している。
3.7.1閣議決定による自衛権発動3要件の変更
(1)憲法9条に関する政府解釈の変更の理由及び内容
しかし、政府は、7.1閣議決定において、「パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る」ことを理由に、憲法9条に関する政府解釈を変更し、憲法9条の下でも、「自衛の措置としての武力の行使の新三要件」(以下、「新3要件」という。)を充たす場合に限り、限定的な集団的自衛権の行使も可能とした。
(2)新3要件の内容
7.1閣議決定で示された新3要件とは、
① ㋐我が国に対する武力攻撃(=急迫不正の侵害)が発生したこと(武力攻撃事態)、又は、㋑❶我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、❷これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求...