組織論のレポートです。トンプソン[1967]を新しい観点から考察せよという指示でした。管理会計におけるAnthony[1965]のマネジメント・コントロール・システムを分析の視座として考察しました。評価はAでした。
参考文献
・Anthony, R. [1965]”Management Control Systems”, McGraw-Hill.
・Anthony, R. and V. Govindarajan[2007], ”Management Control Systems 12ed.”McGraw-Hill.
・Thompson, D.[1967], Organization in Action, McGraw-Hill Company, Inc.(大月博司・廣田敏郎[2012]『行為する組織-組織と管理についての社会学的基礎-』同文館出版。)
・大月博司・高橋正恭[2003]『経営組織』学文社。
トンプソン・モデルのマネジメント・コントロールを視座とした比較検討
―3つのレベルの相互作用と3つの計画・統制プロセスの関係性―
管理会計、とくにマネジメント・コントロールの定番テキストとなっている、Anthony and Govindarajan[2007]が著した”Management Control Systems 12th ed.”を組織論の観点から検討する。Anthony and Govindarajan[2007]によれば、マネジメントは、戦略の策定(Strategy formulation)、マネジメント・コントロール(Management control)、タスク・コントロール(Task control)、の3つのプロセスに区分することができる(図表1)。この概念は、当初は、Anthonyが1965年に上梓した初版では、戦略的計画(Strategic planning)、マネジメント・コントロール、オペレーショナル・コントロール(Operational control)となっている。微妙に内容を変えながらも、およそ半世紀が経った今でも支持されている概念である。
図表1 アンソニーの3つのマネジメント・プロセス
Anthony[1965]
Anthony and Govindarajan[2007]
分類
定義
分類
定義
戦略的計画
組織目的の決定・変更、ならびに組織目的の達成のため資源を取得・使用・処分するに際して従うべき方針を決定するプロセス
戦略策定
組織目的ならびにこの目的達成するための戦略を決定するプロセス
マネジメント・コントロール
組織目的の達成のために。資源が能率的かつ有効に取得・しようされるようけ英管理者が確保するプロセス
マネジメント・コントロール
組織の戦略実施のため、経営管理者がほかの組織構成員に影響を与えようとするプロセス
オペレーショナル・コントロール
特定の課業が能率的かつ有効に行われるよう確保するプロセス
タスク・コントロール
特定の課業あ能率的かつ有効に行われるよう確保するプロセス
一方、組織論でも近似したプロセスとして、トンプソン・モデルの戦略・管理・作業といった3レベルの相互作用プロセスがある。大月・高橋[2003]によれば、戦略レベルでのドメインの設定と、管理レベルでの諸資源の組織化・諸活動のコントロールとが作業レベルでの不確実性の削減・合理性の確保を可能とする一方で、作業レベルで確保された合理性が、今度は管理業務の複雑性を削減し。戦略レベルに環境を適応するための余剰資源(スラック)をもたらす構図になるという(図表2)。
図表2 トンプソン・モデルの3つの相互作用(出典:[大月・高橋[2003, 30])
戦略レベル
管理レベル
作業レベル
外部環境への対応
諸資源・諸活用の組織化と管理
日常業務の遂行
外部環境がもたらす不確実性への対処
外部環境がもたらす不確実性への対処
内部要素がもたらす不確実性への対処
内部要素がもたらす不確実性への対処
確実性の下での業務の遂行
確実性の下での業務の遂行
テクニカルな合理性の確保
テクニカルな合理性の確保
外部環境へ対処するためのスラック(余裕)がもたらされる
外部環境へ対処するためのスラック(余裕)がもたらされる
不確実性の縮減
不確実性の縮減
図表1と図表2を比較すると、Anthony[2007]と近似していることが分かる。すなわち、戦略の策定は戦略レベルと、マネジメント・コントロールは管理レベルと、タスク・コントロールは作業レベルと対応関係にあるといってよいのではないだろうか。仮に対応関係にあるとすれば、Anthony and Govindarajan[2007]の具体例でもって、 大月・高橋[2003]モデルの具体的な活動をとらえることができると考える(図表3)。たとえば、無関連企業の買収を例にとる。無関連企業の買収という戦略レベルの活動は、外部市場の対応である。資源配分を管理レベルで行うことで、内部要素の不確実性を縮減する。作業レベルでは、受注の調整をすることで、確実性の下で業務を遂行する。また一方では、受注の調整はテクニカルな合理性を確保し、新規品・ブランド品の導入によって不確実性を割く変死、買収によって外部環境へ対処するためのスラックがもたらされる。このように、相互作用で説明可能である。
図表3 計画・コントロール機能における決定事項の例示(出典:Anthony and Govindarajan[2007]を加筆修正)
戦略策定=戦略レベル
マネジメント・コントロール=管理レベル
作業レベル=タスク・コントロール
無関連企業の買収
新規事業参入
通販の開始
負債比率の変更
在庫品の価格変動への対応策
研究の規模と方向の検討
既存製品系列内での新規品・ブランド品の導入
工場の拡張
広告宣伝費予算の決定
新規借入
在庫水準の決定
研究組織のコントロール
受注の調整
生産スケジューリング
TVコマーシャルの予約
キャッシュフローの管理
発注管理
個別研究プロジェクトの遂行
以上から、筆者の結論として、戦略作手、マネジメント・コントロール、オペレーショナル・コントロールといった管理プロセスの視点で、組織論におけるトンプソン・モデルの戦略レベル、管理レベル、作業レベルの3つの相互作用を説明可能だと考える。
参考文献
・R. Anthony[1965]”Management Control Systems”, McGraw-Hill.
・R. Anthony and V. Govindarajan[2007], ”Management Control Systems 12ed.”McGraw-Hill.
・大月博司・高橋正恭[2003]『経営組織』学文社。
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