目的
空間認知は動物にとって生存にかかわる基本的な行動を支える重要な機能である(岡市2002)。餌のある場所や敵のいそうな場所を覚えておく、巣に戻るためにもっとも効率的で安全な道筋をたどる、といった適切な行動をするためには、空間的位置を認知し記憶しなければならない(岡市2002)。ラットのその空間探索能力を測定する課題の一つに水迷路課題がある。
ラットが空間課題を解決する際に取りうる主な方略として、場所方略、手がかり方略、反応方略の3つがよく知られている。場所方略とは、環境刺激を利用して、空間の地図(認知地図)を頭の中に作り、その地図の中に目的地や自分の現在位置を書き込む。フレキシブルに経路を選択し、目的地にたどりつくことを意味する。手掛かり方略とは、目標を同定しうる手掛かりが存在する場合、その目標を目指していくことを意味する。反応方略とは、自分自身の体の動きから生じる体内刺激(筋運動感覚)を覚えておいてそれを利用して行動することを意味する。
正常なラットはこの3つの方略の中で場所方略を好んで使うことが知られている。実際、ラットがそのような行動を取るかどうかを調べるため、今回の実験では、場所方略と手掛かり方略の水迷路課題を行うことにより、ラットの空間探索の行動を観察し、ラットが場所方略を手がかり方略より好むのかを検討した。
方法
被験体
オペラント条件付けの経験を持っている雄のWistar系アルビノラット4匹を使用した。4匹のラットの体重(実験開始から2週目の体重)はそれぞれ、ジミ-が485g、Johnが510g、ボビーが500g,龍之介が490gだった。
装置
直径150cm、高さ46cmの円形のビニールプールに墨汁で黒濁させた水(水温22+ 1度)を12cmの深さまで入れたものを使用した。場所課題用逃避台として直径8.2cm高さ11cmで全体を黒く塗った円筒形逃避台を、手がかり課題用逃避台として直径8.2cm高さ13cmで上面が白い円筒形逃避台を用いた。
手続き
自由摂食したラットをケージに入れたまま飼育室から装置の間近まで運んできた。それからは、目的にも述べたように場所課題と手がかり課題を行った。
場所課題はプール内部を仮想上の東西南北に分割し、いずれかの四分領域の中央に逃避台をおき(その位置はラットごとに固定される)、スタート位置をプールの縁の東西南北の4ヶ所とした。この実験をするにあたり、4人をラットをケージから出す係、逃避台を移動させる係、時間を計測しラットを移動させる係、ラットの実験結果を記録する係に分けた。
プールの回りには、北東、南西の方角にぬいぐるみを天井から吊るし、課題の解決に支障がないように一切動かさなかった。
そして、ラットを出発点から壁に向かって静かに水にいれ(その方角は各試行ごとにランダムに選ばれた)、ラットが泳いで逃避台に乗るまでの時間(逃避潜時)を計測し、記録した。この記録は、60秒間経過しても逃避台にたどり着かなければ、実験者がラットを逃避台まで誘導するというルールの下で行われた。また、逃避台にたどり着けば、15秒間そのまま置き、プールから取り上げてタオルで身体をふいてからケージに戻した。
手がかり課題は逃避台が水面上に見えるように設置し、逃避台を試行ごとに4ヶ所をランダムに動かした。それ以外は場所課題と同じ手続きで行った。
場所課題と手掛かり課題の終了後、プローブテストを行った。プローブテストは逃避台を取り除き、60秒間自由に泳がせ、ラットの象限滞在時間と逃避台位置横断回数を記録した。その後、ラットをプールか
目的
空間認知は動物にとって生存にかかわる基本的な行動を支える重要な機能である(岡市2002)。餌のある場所や敵のいそうな場所を覚えておく、巣に戻るためにもっとも効率的で安全な道筋をたどる、といった適切な行動をするためには、空間的位置を認知し記憶しなければならない(岡市2002)。ラットのその空間探索能力を測定する課題の一つに水迷路課題がある。
ラットが空間課題を解決する際に取りうる主な方略として、場所方略、手がかり方略、反応方略の3つがよく知られている。場所方略とは、環境刺激を利用して、空間の地図(認知地図)を頭の中に作り、その地図の中に目的地や自分の現在位置を書き込む。フレキシブルに経路を選択し、目的地にたどりつくことを意味する。手掛かり方略とは、目標を同定しうる手掛かりが存在する場合、その目標を目指していくことを意味する。反応方略とは、自分自身の体の動きから生じる体内刺激(筋運動感覚)を覚えておいてそれを利用して行動することを意味する。
正常なラットはこの3つの方略の中で場所方略を好んで使うことが知られている。実際、ラットがそのような行動を取るかどうかを調べるため、今回の実験では...