教科書の解説を踏まえて、「クレーヴの奥方」を読んで論じる。
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フランス文学概説 2019年度
1.はじめに
「クレーヴの奥方」は、17世紀、ルイ14世統治下のフランスにおいてラ・ファイエット夫人が刊行した恋愛小説である。私は本作を読んで、「なぜ奥方はクレーヴ公を愛さないのか?」という疑問が浮かんできた。
本作の主な登場人物の恋愛感情は、それを阻害する何らかの障害なしには発生、持続しえないものとして描かれている。本論では、この作品においてクレーヴ夫人、クレーヴ公、そしてヌムール公の三人の恋愛に立ちはだかる「障壁」について考察する。
2.主な登場人物とその恋の障壁
2.1.クレーヴ夫人
クレーヴ夫人の恋の相手は、夫であるクレーヴ公ではなくヌムール公である。よってヌムール公への恋に身をゆだねてしまえば、まず夫を裏切ることになってしまう。一般的な不倫恋愛を考えればクレーヴ夫人の恋愛の障壁は夫なのだが、夫人の恋にはそれ以外にも障壁がある。
シャルトル嬢(=クレーヴ夫人)は、16歳でパリ社交界へデビューするまで、母であるシャルトル夫人から熱心な教育を受けて育ってきた。その教育の最大の特徴は、娘を色恋沙汰から遠ざけるために、むしろ恋愛について様々なこ...