マーケティング理論研究レポート:サブリミナル・インパクトによる消費者主権の変化

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    資料紹介

    マーケティング理論の最終課題で提示されたレポートです。課題図書(下條伸輔(2008)『サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の時代』ちくま新書。)を元に3ページで仕上げました。評価はA+です。

    資料の原本内容

    インターネットがもたらす消費者の選択の自由と制限

    ―消費者主権への挑戦―
    1. 序文

     インターネットは、消費者の選択肢を広める面もあれば狭める面もある。本稿は、インターネットを主軸に、企業が働きかける情動と潜在認知が消費者に与える影響について述べる。

    企業による情動と潜在意識をターゲットとした宣伝は、消費者の選択する「自由」を奪う可能性がある。下條(2008)曰く「経済社会の成熟は選択肢を増やすことで消費者の自由に貢献したかと思いきや、その幅を制限することでさりげなく自由も制御しようとしている」(p.200)のである。自覚させずに、情動や潜在認知に直接影響を与えことで、消費者を誘導するのである。

    古くから企業と消費者の関係は、「消費者主権」という言葉通り、消費者側が権力をもつ、と考えられてきた。消費者は自由な意思で購入していると思い込んでいたのである。しかしながら、企業による情動と潜在認知への働きかけによって、自らの好みや価値観が実は企業側の誘導を受けているのかもしれないのである。

     インターネットが生まれる前までは、基本的にマスメディアから一方的に、消費者に対して広告を流していた。企業が介さない宣伝は、口コミのような限られた経路しかなかった。商品の情報を得る手段は限られていたのである。ところが、インターネットの登場によって、消費者は商品の情報に気軽にアクセスできるようになった。広告や口コミではなく、能動的に商品を選ぶ手段を得たのである。次節以降、インターネットがもつ消費者の選択肢を広げる側面と選択肢を狭める側面について論じる。
    2. 消費者の選択肢を広める側面

     インターネットは、消費者の選択の自由を広げる。消費者は世界中の商品の情報を得ることができる。企業の一方的な広告に頼らずとも、製品の詳細な情報が得られるのである。品質、機能、価格といった情報を入手できることで、消費者の選択の幅は広がったといってよいだろう。具体的には、価格コムというサイトでは、製品の消費者の評価や販売者ごとの値段が手軽に知ることができる。消費者は、どの製品をいくらで買うか、を決定することが可能なのである。

     インターネットは、距離の問題を解決した。流通網の発達により、自宅で商品を購入できるのである。むろん、古くからカタログ販売などの形で存在していたが、情報量や選択肢という面で、インターネットが圧倒している。

     さらに、口コミの威力が増大した。昔はブログや掲示板が主だったが、最近ではツイッターやフェイスブック、LINEといったソーシャルメディアを通じて、消費者側から商品の情報を発信できるようになった。企業にとって都合のいい情報も悪い情報も瞬時に伝わるようになったのである。具体的には、まるか食品のカップ焼きそば「ペヤング」の異物混入問題がある。消費者のツイッターによるクレームによって、問題が大きく波及したといえよう。人づてに伝わる「噂話」の規模が、昔の比ではなくなっているのである。
    3. 消費者の選択肢を狭める側面

    実は、インターネットは消費者の自由を狭める側面ももっている。企業側は、インターネットを通じても、当然のように情動を潜在認知に働きかけを行っているのである。その代表例がAmazon.com(アマゾン)だろう。アマゾンで書籍を買うと、それに関連したおすすめの商品をピックアップしてくれる。こうすることで、他の商品に目が向かなくなる。すなわち、選択の自由を制限するのである。古くから存在するバナー広告も同様であろう。消費者のウェブ履歴から商品を厳選して提示するからである。洋服店に行くと、客の好みに合わせていろいろな服を勧めてくるのに似ている。

     さらに、人気があるからおすすめされたのか、おすすめされたから人気があるのか、わからないとう問題もある。情動と潜在認知による働きかけという意味では、おすすめされたことで、無意識にその商品がいいものだと認識してしまうことが考えられる。消費者にとって本当によい商品を買うか否かではなく、周囲が買っているのにつられて買ってしまうのである。わざと行列をつくる手法と似ていよう。

     さらに、企業は、ステルスマーケティングという手法で、巧妙に消費者の購買欲を刺激しようとしている。ステルスマーケティングとは、消費者に宣伝だと気づかれないように宣伝する手法である。具体的には、読者の多いブログの書き手に、お金を払って商品を宣伝してもらう方法がある。古典的なサクラを雇って宣伝する手法と類似している。

    いずれにせよ、インターネットは、消費者の選択の自由を狭める側面をもっていることに注意が必要であろう。企業側は、消費者をうまく誘導して商品を購入させたい。インターネットは、その膨大な商品情報の中から、消費者を誘導するインフラとしての役割をもっているのである。
    4. 結語

    インターネットは、消費者の自由な選択肢を増大する側面と、制限する側面の両方をもっている。これは一見すると矛盾しているようにみえる。しかしながら、下條(2008, p.200)によれば、自由と強制は次第に重なっていく点が、現代社会の特徴でもある。

    無論、最終的な決定権は消費者にあることは間違いない。しかしながら、インターネットの登場は、企業側が消費者の選択肢をコントロールする余地を増加させているのではないだろうか。たとえば、アマゾンでダイエットの本を買うとしよう。目的の本を購入しようとすると、おすすめ商品として健康器具が提示される。おすすめされる商品は、消費者の履歴に基づいて消費者の欲求にあうような健康器具が選択されている。そのため、「ついでに」おすすめされた健康器具を買ってしまうかもしれない。これは、本しか販売していない従来の書店ではできなかったことである。

    インターネットの登場によって商品の情報量は飛躍的に増した。一見、インターネットは消費者が自由に商品を選ぶ権利を強めたように思える。しかしながら、あまりに情報が多すぎることで、企業側がうまく情報を制限して消費者に渡す余地があるのである。また、それを消費者は「便利」だと感じるのである。インターネットを通じて企業と消費者の距離が近くなればなるほど、企業側の消費者分析は容易になり、消費者をコントロールできるようになるだろう。
    参考文献
    下條伸輔(2008)『サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の時代』ちくま新書。
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