インド哲学における根本問題は、「いかに解脱は可能か?」というものであっ
た。解脱とは、輪廻のサイクルから脱却して、現世にこれ以上生まれ変わらない
という状態である。インドでは厳しいカースト制度が存在するため、人々は来世
で低いカーストに生まれ変わることをとても恐れているという。そのため、生ま
れ変わるということは苦だという認識であり、解脱こそを究極の目的と考える文
化なのである。
知識を獲得することによって解脱へ至るというサーンキヤ哲学は、カピラが開
祖とされている。その後、アースリからパンチャシカへと伝わり、4 世紀頃にイ
ーシュヴァラクリシュナがその思想を約 70 の詩として残した。この『サーンキ
ヤ・カーリカー』は、現存する最古のテキストである。その内容はというと、例
えば、ヨーガ学派において権威のある教典『ヨーガ・スートラ』は修行であるヨ
ーガの方法が書かれた実践的な書であるのに対して、『サーンキヤ・カーリカー』
は主に心の働きについて考察した書であるといえる。
『サーンキヤ・カーリカー』では、「苦」そのものの存在である人間が、それ
をサーンキヤ体系によって取り除く方法につ...