S評価。日常記憶の性質を検証するための実験である。普段目にしている物なのに、いざ、どういう物かを改めて問われると、いかに記憶が曖昧か、ということを先行研究を参考に的確に理論立てて検証できている。また、別の手法についての言及も良く書けている、と評価を頂いています。
日常記憶
問題と目的
我々人間が日常で利用する長期記憶は、その内容によって意味記憶とエピソード記憶の2つに
区分される(箱田・都築・川畑・萩原,2010)。この2つの記憶は、原則日常生活の中で蓄え、思
い出し、使われるため日常記憶と呼ばれる。
日常記憶は実験室的記憶と対比される概念であり、従来の実験室的な環境ではなく日々身近な
道具が使われることが多い。例えば、Nickerson & Adams(1979)は1セントコインの模様を描か
せるテストを実施し、比較的正答が容易な再認課題であっても正答率が 42% に過ぎないことを
報告している。この結果は、日常で頻繁に利用するものを構成している情報すべてを正確に理解
しているわけではなく、特徴的な視覚的要素のみが保存されていることを示している。
このような日常記憶の性質は我々にも備わっている。本実験ではそれを検証するため、高良・
箱田(2008)の実験を参考に紙幣を対象とした記憶実験を実施する。具体的な手続きとして、
参加者に新千円札紙幣の模様再生課題を実施し、その正答率を比較する。
方法
参加者
本研究の実験参加者は心理学基...