日本の公害問題の先駆けとなった足尾鉱毒事件と近年日本中を震撼させた福島第一原発事故。同じく「人災」として共通している2つの事件をもとに、二度と過ちを繰り返さないために私たちが学ぶべきことは何かを論じる。
「人災」としての足尾鉱毒事件 そして福島第一原発事故
足尾銅山からの鉱毒流出により渡良瀬川流域の人民と自然に甚大な被害をもたらした足
尾鉱毒事件は、日本における最初の公害問題として広く知られている。だが足尾鉱毒事件
は災害ではなく、人間の手によって引き起こされたまぎれもない人災なのである。ここで
は人災とはどういうことか、何がその要因となったかを明治政府、地方官庁、古川工業の
行動に求めながら考察していきたい。
明治時代、銅は貴重な外貨獲得源であり、富国強兵を掲げる日本政府にとって重要な資
源であった。1877 年古川市兵衛が足尾銅山の経営に乗り出すと 1883 年には日本一の産銅
量を誇る鉱山に成長した。同時にずさんな排水処理による鉱毒汚染が始まったのもこの頃
である。鉱毒は洪水の度に田畑に流れ出し、深刻な稲の生育不良や人体に被害をもたらし
た。しかし驚くことに、住民はこれらが鉱毒によるものだとはすぐに気づかなかった。彼
らが鉱毒による被害に気付いたのは汚染が始まって 10 年も後のことである。一体なぜか。
その背景には様々な要因が挙げられる。その1つが古河と権力の癒着である。...