Xが室内で、一緒にいたAを驚かすために、日本刀の抜き身を数回振り回していた事例ついて、暴行罪(刑法208条)が成立するかが問題になる。
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかった行為」(刑法208条)を暴行罪という。「暴行」とは、他人の身体に対する有形力ないし物理力の行使である(最決昭和28年2月19日刑集7巻2号280頁)とされる。暴行罪(208条)は傷害罪(204条)の未遂を含んでいるが、人が傷害する程度の危険性の高い行為をしなければ、法文上に傷害罪との関係を示す根拠がないため、暴行罪を説明することができない。その暴行罪の要件として、「傷害の危険性」の要否と「身体的接触」の要否が問題になる。
まず、「傷害の危険性」をめぐっては、傷害結果を生じさせる危険がないような場合でも、暴行にあたるのかが議論されている。その中に、「傷害するに至らなかった」ということは、その危険は存在していたことになる。そのことを前提に考える説を「傷害の危険必要説」という。しかし、汚物を投げつける、強く押さえつける等の行為をしても、傷害の危険を認めない限りは、処罰できないのではないかという批判もある。
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