夏目漱石の「当て字」について
私は今回、他の授業で扱った夏目漱石の『彼岸過迄』という作品において、当て字のようなものが多いことに興味を持った。そこで、『彼岸過迄』を中心に、夏目漱石の当て字の用法の特徴について調べてみたいと思う。
そもそも、当て字とは何であるか。日本国語大辞典によると、
あて-じ(宛字・当字)〔名〕漢字本来の意味に関係なく、その音・訓だけを借りてある語の表記
に当てる漢字の用法。借字。「浅増(あさまし)」「目出度(めでたし)」「矢張(やはり)」「野
暮(やぼ)」の類。
とある。しかし、私は今回のレポートの中では、次のようなものを当て字ということにする。
一寸(ちょっと)、洋杖(ステッキ)のように、漢字自体の読みでは考えられないふりがながふってあるもの。
加留多(かるた)、盆槍(ぼんやり)のように、漢字本来の意味に関係なく、言葉の音に漢字の音・訓読みをあててあるもの。
なお、『漱石新聞小説復刻全集6 彼岸過迄』(夏目金之助著 ゆまに書房 平成十一年九月)を底本とする。
まず、『彼岸過迄』の中の、「彼岸過迄に就て」「風呂の後」「停留所」各章においての、当て字をまとめてみた。(複数回あるものは初出のみ記載する)
「彼岸過迄に就て」
身體(からだ)・機會(しほ)・原(もと)・仕舞つた(しまつた)・背負された(しょはされた)・先(まづ)・例よりも(いつもよりも)・浪漫派(ろうまんは)・標題(みだし)・一寸(ちょっと)
「風呂の後」
〈第一回〉・反間(へま)・麦酒(ビール)・何時(いつ)・勿體ない(もったいない)・序(ついで)・咽喉(のど)・煙草(たばこ)・凝として(じっとして)・積であつた(つもりであつた)・硝子(がらす)・昨夕(ゆうべ)・羞痒たい(くすぐつたい)・何う(どう)・倦怠さう(だるさう)・矢張り(やつはり)
〈第二回〉・胡座(あぐら)・間(ひま)・貴方(あなた)・石鹸(しゃぼん)・盆槍(ぼんやり)・勤勉(まめ)・潤かし(ふやかし)・此方(こっち)・何れ(どれ)・斯んな(こんな)・上靴(スリッパー)・午飯(ひる)
〈第三回〉・停車場(ステーション)・歴乎とした(れっきとした)・呉れた(くれた)・可笑しさ(おかしさ)・掩被さつて(おつかぶさつて)・膃肭臍(をっとせい)・安質莫尼(アンチモニー)・盲目(めくら)・臙脂(べに)・白粉(おしろい)
〈第四回〉・浪漫趣味(ロマンチツク)・短銃(ピストル)・剽輕(ひやうきん)・新嘉坡(シンガポール)・護謨(ゴム)・天鷲絨(びらうど)・算盤(そろばん)
〈第五回〉・新亞刺比亜物語(しんアラビアものがたり)・倫敦(ロンドン)・手帛(ハンケチ)・長閑な(のどかな)
〈第六回〉・少時(しはらく)・室(へや)・煉瓦(れんが)・左様ですね(そうですね)・何時でも(いつでも)・兎に角(とにかく)・增(まし)・期待(あて)・浪漫的(ロマンチック)
〈第七回〉・止しませう(よしませう)・熱つてくる(ほてつてくる)・噫(げつぷ)・今日(けふ)・好い加減(いいかげん)・矢つ張り(やつはり)・其方(そつち)・立ち掛た(たちかけた)
〈第八回〉勃として(むつとして)・他(ひと)・先刻(さつき)・天幕(テント)・如何に(いかに)・蝮蛇(まむし)・魚肉(さかな)・獣肉(にく)・精しい(くはしい)・序(ついで)・非酸(ひさん)・蚊帳(かや)
〈第九回〉・非道い(ひどい)・不中用(やくざ)・洋杖(ステツキ)
〈第十回〉・神さん(かみさん)・御音信(おたより
夏目漱石の「当て字」について
私は今回、他の授業で扱った夏目漱石の『彼岸過迄』という作品において、当て字のようなものが多いことに興味を持った。そこで、『彼岸過迄』を中心に、夏目漱石の当て字の用法の特徴について調べてみたいと思う。
そもそも、当て字とは何であるか。日本国語大辞典によると、
あて-じ(宛字・当字)〔名〕漢字本来の意味に関係なく、その音・訓だけを借りてある語の表記
に当てる漢字の用法。借字。「浅増(あさまし)」「目出度(めでたし)」「矢張(やはり)」「野
暮(やぼ)」の類。
とある。しかし、私は今回のレポートの中では、次のようなものを当て字ということにする。
一寸(ちょっと)、洋杖(ステッキ)のように、漢字自体の読みでは考えられないふりがながふってあるもの。
加留多(かるた)、盆槍(ぼんやり)のように、漢字本来の意味に関係なく、言葉の音に漢字の音・訓読みをあててあるもの。
なお、『漱石新聞小説復刻全集6 彼岸過迄』(夏目金之助著 ゆまに書房 平成十一年九月)を底本とする。
まず、『彼岸過迄』の中の、「彼岸過迄...