実行の着手について
1 実行の着手の意義
(1)学説の対立
主観説 犯意の飛躍的表動が認められるときに、実行の着手ありとする見解
客観説
形式的客観説 構成要件に属する行為を行うこと、構成要件に属する行為に近接密接する行為を行うことにより実行の着手ありとする見解
実質的客観説 結果発生の現実的危険を惹起する行為を行うことにより実行の着手ありとする見解
危険性の位置づけからの実質的客観説内部の対立
行為危険性説 法益侵害の現実的危険性と基準とし、この危険性を「行為の属性」とする見解
結果危険性説 法益侵害の具体的危険性を基準とし、この危険性を「結果の属性」とする見解→着手時点は、行為以降に当該行為が結果発生の切迫した危険性を有した時点となる。
危険性の判断資料として行為者の主観をどの範囲まで取り入れるかについての実質的客観説内部の対立
計画考慮説 行為者の意図・計画および性格の危険性を考慮すべきであるとする見解
故意考慮説 故意または過失のみを考慮すべきであるとする見解
無考慮説 主観的要素を考慮すべきでないとする見解
(2)私見
主観説は、犯罪意思を重視することにより、処罰の時期が早くなりすぎる点で妥当でなく、形式的客観説は予備と未遂の区別が実際上困難である点で妥当でない。未遂処罰の根拠は、構成要件の実現ないし結果発生の現実的危険の惹起に求めるべきであり、実行の着手もその現実的危険を惹起せしめることをいうと解すべきであるから、実質的客観説が妥当である。よって、実行の着手とは、構成要件的結果の発生にいたる現実的危険性を含む行為の開始をいうと解すべきである。
また、危険性の有無の判断は、行為時を基準になす事前判断と解すべきであるから危険は行為の「結果」ではなく「行為の属性」と解する行為危険性説が妥当である。結果危険性説は、実行行為と未遂に必要な着手を区別することから行為の定型性を欠く恐れがあり、構成要件を基本とする現行法になじまず妥当でない。
また、危険性の判断資料として行為者の主観を取り入れるか否かについては、実行行為が主観と客観の統合体であること、構成要件の個別化の要請があることからは、行為者の故意については取り込むべきである。しかし、行為者の犯罪計画および危険性まで考慮することは、修正された構成要件に該当するか否かという類型的判断になじまない。よって、故意・過失のみを考慮すべきとする故意考慮説が妥当である。
(3)判例
窃盗罪につき「事実上の支配を犯すにつき密接なる行為をなしたるとき」とするなど、形式的客観説にたつものと解されてきたが、その後「行為が結果発生の恐れのある客観的状態にいたったかどうか」を基準とした高裁判例を最高裁が肯認した判例(S29・5・6)以後、実質的客観説に従ったとみられる下級審判例が増え、最高裁も強姦罪の実行の着手が問題となったS45・7・28において「被告人が同女をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした段階においてすでに強姦にいたる客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において強姦の着手があったと解するのが相当であ」るとして、実質的客観説の立場を鮮明にしたと評価されている。
具体例
住居侵入窃盗→物色行為開始時
ただし、電気器具店に侵入し、製品を確認したが、なるべく現金を取りたいと考え、現金のあると思われる「煙草売り場のほうに近づいた」行為に実行の着手を認めた判例がある。この判例については、さまざまな理解があるが、店舗浸入目的が当初から窃盗であり、商品を盗るか現金を盗る
実行の着手について
1 実行の着手の意義
(1)学説の対立
主観説 犯意の飛躍的表動が認められるときに、実行の着手ありとする見解
客観説
形式的客観説 構成要件に属する行為を行うこと、構成要件に属する行為に近接密接する行為を行うことにより実行の着手ありとする見解
実質的客観説 結果発生の現実的危険を惹起する行為を行うことにより実行の着手ありとする見解
危険性の位置づけからの実質的客観説内部の対立
行為危険性説 法益侵害の現実的危険性と基準とし、この危険性を「行為の属性」とする見解
結果危険性説 法益侵害の具体的危険性を基準とし、この危険性を「結果の属性」とする見解→着手時点は、行為以降に当該行為が結果発生の切迫した危険性を有した時点となる。
危険性の判断資料として行為者の主観をどの範囲まで取り入れるかについての実質的客観説内部の対立
計画考慮説 行為者の意図・計画および性格の危険性を考慮すべきであるとする見解
故意考慮説 故意または過失のみを考慮すべきであるとする見解
無考慮説 主観的要素を考慮すべきでないとする見解
(2)私見
主観説は、犯罪意思...