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はじめに
我々が「童話」や「おとぎ話」と聞くとき、誰もが懐かしさを覚えるだろう。しかし大多数の人は大人になると童話やおとぎ話といった類の本はまず読まなくなってしまう。それは、それらの話が子供のためのものである、といった先入観があるためであろう。けれどももしその先入観が覆されたとしたらどうだろうか。童話やおとぎ話はけっして子供の為だけではない、と。
そもそも、当時グリム兄弟がなぜ古くからの民話や伝承を編纂し、童話集という形にして残そうとしたのか。
グリム童話集が誕生した当時のドイツは、まだフランスやイギリスのように単一の国家として存在せず、神聖ローマ帝国という国家とは名ばかりの、領邦国家の集合体という形でしか存在していなかった。そんななか1806年、神聖ローマ帝国が崩壊し、グリム兄弟の祖国であったヘッセン選帝侯国はナポレオンの弟ジェローム王のヴェストファーレン王国に組み込まれ、その後1813年にナポレオンが敗れるまでのあいだフランスの統治下に置かれることとなった。そんな状況下でKinder- und Hausmärchen(原題『子供と家庭の童話』、『グリム童話集』として呼ばれる方が多い)の第一巻は誕生したのである。
このような時代と国家の形態の関係が『グリム童話集』を生み出した、と言っても過言ではないだろう。仮に今、自分たちが統一された強固な国家としての国を持たず、そのうえ他国に占領されたとする。すると自ら団結し、自分たちの国家を持とうと考え、他国の支配に対抗しようとする動きが起こりうるのではないだろうか。グリム兄弟にとってそれが『グリム童話集』であり、民族の財産ともいうべき伝承や昔話を以て国民を統一し、まだ見ぬ国家としてのドイツを願ったのではないだろうか。だとするならば『グリム童話集』は単にゲルマン民族の財産として伝承や昔話を残すためだけのものではなく、その中に国民意識が溶け込んだ読み物であるといえよう。
グリム童話に込められた国民意識
目次
はじめに 3ページ
統一国家への憧憬 4ページ
1-1 1785~1806年 青年時代と激動の社会 4ページ
1-2 1806~1815年 解放戦争と国民意識の高揚 5ページ
1-3 1815~1849年 統一への胎動、そして失望 7ページ
民族の遺産 10ページ
2-1 法・言語・詩歌 10ページ
2-2 メルヒェン収集の意図 11ページ
グリム童話集 12ページ
3-1 『グリム童話集』に見える国民意識 13ページ
3-2 18世紀から19世紀にかけての読書事情と『グリム童話集』 15ページ
おわりに 18ページ
参考文献 20ページ
付録 22ページ
グリム童話の3稿の比較及び改定内容 22ページ
グリム兄弟関連年表 31ページ
はじめに
我々が「童話」や「おとぎ話」と聞くとき、誰もが懐かしさを覚えるだろう。しか...