視野の逆転

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    資料紹介

    問題
    知覚(視覚)とは、生活する中でとても大切な役割を果たしている。人間の視覚は、目の構造を考えると分かるが、見ている世界と網膜上に映った像は上下左右が逆である。この構造は生まれながらにして持っている能力ではなく、成長していく過程で経験として得ていく能力であり、新生児の上下逆さまの視界で生活し、大人の水準に達するのは視覚能力が4,5歳であると考えられている。
    では、この能力は日常生活において、私たちにどのような影響を与えているのだろうか。日常的に私たちが用いている鏡について、鏡はいつも左右反対に見せているわけではない事に気がつく。例えば、自動車のバックミラーに関して、自分の運転する自動車を右側から追い抜こうとしている車が、バックミラーの中でも右側に消えてゆく。また、鏡を見ながらひげを剃ったり化粧をしている時、動かしている自分の手は鏡の中でも同じ方向に動いているように見える。しかし、それを不思議だと感じることはない。もちろんこのような不統一は、鏡によるものではなく人間の心理に原因があるのである。
    今回の実験では、左右・上下2つの逆さ眼鏡を用いるが、これらの見え方にどのような差が生まれるのだろうか。吉村・大倉(1983)の実験によれば、歩行課題において上下反転に比べ左右反転視の方が圧倒的に困難であると評価する被験者が多かったと報告されている。また、その原因について、吉村(1997)は上下反転における奇異感が逆さ眼鏡装着時における視覚情報が誤っていると脳が判断でき、切り替えることが容易であるが、左右反転ではその奇異感が少ないため、順応がすぐに行われないと述べている。
    では、実際に二つの逆さ眼鏡を装着し、日常生活の遂行にどのような影響があるのかを実験する。
    目的
     網膜像を逆転した際の経験を通し、外界へ適応するための視野の役割と脳の順応性について検討する。
    方法
    被験者:心理学実験受講生10名。
    器具:上下・左右逆転眼鏡(東洋フィジカル製)、ボール、積み木、ストップウォッチ、紙コップ、筆記用具、記録用紙
    手続き:実験は二人ペアで行い、一方が被験者、他方が実験者(介添え者)となる。実験中の記録や補助は実験者が行う。
       被験者が逆転眼鏡を装着したら、次の課題を行う。
    片足で直立し、できるだけ長時間バランスをとり続ける。
    目の前で両手の人差し指を合わせる。
    介添え者にボールを投げてもらい、それをキャッチする。
    股覗きをする。
    着席し、紙に自分の名前と介添え者の呈示する文字列(みかづき、クリスマス)を筆記する。
    積み木を5個重ね、上下反転課題に関して完成するまでの時間を計測する。
    介添え者の補助で10分間の順応試行に入る。(周囲を観察しながら実験室前の廊下を歩行する。頭部を45度傾けて歩行する。トイレで手を洗う。コップに水を汲む。 等々)
    再度積み木課題の計測を行う。
    被験者と実験者を交代する。終了したら他方の逆転眼鏡で同手順を繰り返す。
    結果
     まず始めに、積み木課題に要した時間を表にまとめる。(表1)
    表1 積み木課題所要時間
     被験者の順応試行前の平均所要時間は51.4秒、試行後の平均所要時間は26.5秒で、全体では順応試行前に比べ試行後は24.9秒所要時間が短くなっていた。そして、個人データをグラフ化グラフ化したものが図1、平均値をグラフ化したものが図2である。
    図1 積み木課題所要時間(個人)
     図1を見ると、全体的に順応試行前後で明らかに所要時間は短縮していることがわかる。増加している被験者に関してもその差は若干で、また、それらの被験者については

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    問題
    知覚(視覚)とは、生活する中でとても大切な役割を果たしている。人間の視覚は、目の構造を考えると分かるが、見ている世界と網膜上に映った像は上下左右が逆である。この構造は生まれながらにして持っている能力ではなく、成長していく過程で経験として得ていく能力であり、新生児の上下逆さまの視界で生活し、大人の水準に達するのは視覚能力が4,5歳であると考えられている。
    では、この能力は日常生活において、私たちにどのような影響を与えているのだろうか。日常的に私たちが用いている鏡について、鏡はいつも左右反対に見せているわけではない事に気がつく。例えば、自動車のバックミラーに関して、自分の運転する自動車を右側から追い抜こうとしている車が、バックミラーの中でも右側に消えてゆく。また、鏡を見ながらひげを剃ったり化粧をしている時、動かしている自分の手は鏡の中でも同じ方向に動いているように見える。しかし、それを不思議だと感じることはない。もちろんこのような不統一は、鏡によるものではなく人間の心理に原因があるのである。
    今回の実験では、左右・上下2つの逆さ眼鏡を用いるが、これらの見え方にどのような差が生まれるの...

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