刑法事例演習教材 第2版(新版)の解答です。事例問題形式での刑法演習書として本書の問題は完成度が高く、基本論点を網羅するとともに「考えさせられる」良問が揃っているため、現時点で,刑法科目最高の問題集であります。
充実した解答のついていない本書において、本解答は貴重なものであると思います。特に,答案を書くにあたり,受験生が苦手とする「事実の評価部分」が充実していますので、司法試験対策には非常に有用な内容に仕上がっております。
そして、本解答は司法試験合格者に添削をしてもらった上で作成しているため、信頼できる内容になっていると考えます。 また、発展的な問題については、参考文献や参考資料を引用した上で作成もしておりますので、学習の便宜上、有効な内容となっております。
第28問 元風俗嬢の憤激
第1 行為の一体性
1 甲は、Aの右腰部を包丁で一回軽く突き刺す行為(以下「第一行為」という。)によって、Aを負傷させている。かかる第一行為は、Aの脅しに対する恐怖心から出たものであり、その態様は急所ではない腰部に軽く一度突き刺す程度にとどまる。これらの事実からAを殺害する意図までは認められず、傷害の故意にとどまるといえる。
2 次に甲は、Aの腹部を包丁で力任せに三度突き刺している(以下「第二行為」という)。
かかる第二行為は、Aの執拗な暴行に対し憤激の極みに達しなされたものであり、その態様は刃渡り15・5センチの包丁で、内蔵の位置する腹部を力任せに三度ついており、生命侵害の危険性が高い。さらに甲は負傷したAになんらの救助を与えず立ち去っている。これらの事実からすれば甲には、少なくともA殺害の未必的故意があったといえる。
3 そして、第一行為は、Aからの暴行や菜箸をつかった脅迫に殺意なく対応する意思のもと行われたのに対し、第二行為は、後述するがAからのその後の暴行に対して殺意を持って攻撃しており、侵害に対応する意思がない。そのため、両行為は同一の意思...