永井荷風の文学的特色を記し、代表作一つをあげて鑑賞せよ。
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国文学講義Ⅴ(近代) 分冊2 平成25・26年報告課題
<永井荷風の文学的特色を記し、代表作一つをあげて鑑賞せよ。>
永井荷風の文学は、一見異質な二つの要素によって彩られている。荷風のフランス文学への愛着と、大震災以前、東京に生き残っていた江戸文化へのノスタルジアである。荷風は文学によって明治の日本における偽善と俗悪を嘲った。そのために、荷風がとった態度は、過去の文人に倣い偽善と俗悪の明治の世に背を向けることだった。後に荷風が戦争にいっさい協力しなかったのも、けっして正義感に基づくものでなく、俗で野蛮な世界への、消極的な抵抗の姿勢の表れの延長にすぎなかった。
荷風が受けた漢学の教育は、彼に大きな影響を与えた。フランス文化にかぶれていた時期においてさえ、荷風の漢詩への興味は絶えることなく、漢詩の直截的な表現、漢文の簡潔さ、とくに日本の文章の漢文脈は、彼の作品に常に影響を与え続けた。
広津柳浪の門下生として作家活動を開始した荷風は、明治三十年代半ばには小杉天外や小栗風葉とならんで、前期自然主義の雄としてその地歩を築いていた。『地獄の花』(一九〇二年)や『夢の女』(一九〇三年)は、この時期...