「第十三回三田文学新人賞当選作『針谷の小説』を読んで」
「針谷の小説」という作品を読んで持った印象は第一に、描写されている日常の風景が大変身近で親しみやすいということである。
「……銀杏並木を歩き続け、気が付けばそこは駅の改札前、大きな金属製の球体が至近距離にある。」
登場人物は慶應の学生なのだなということが分かり、また読み手であるこちらも「そうそう。」と共感してしまう。しかしこの描写は、「日吉に通った経験のある塾生」という特定の範囲の読み手にしか通用しないであろう。
「第十三回三田文学新人賞当選作『針谷の小説』を読んで」
「針谷の小説」という作品を読んで持った印象は第一に、描写されている日常の風景が大変身近で親しみやすいということである。
「……銀杏並木を歩き続け、気が付けばそこは駅の改札前、大きな金属製の球体が至近距離にある。」
登場人物は慶應の学生なのだなということが分かり、また読み手であるこちらも「そうそう。」と共感してしまう。しかしこの描写は、「日吉に通った経験のある塾生」という特定の範囲の読み手にしか通用しないであろう。それ以外の読み手がこれを見て瞬時に「日吉に通う慶應生の日常」を連想できるとしたら、それはこの小説が身を置いている「三田文学」と...