商品の付加価値における考察

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    商品の付加価値における考察
    市場は大きく分けて「売り手」と「買い手」とに分類することができる。そして「顧客満足」とは、言いかえると「買い手が取引に満足」する状態であると考えられる。だとすれば、顧客満足というテーマについて論じる場合、売り手側よりもむしろ買い手側の視点で考えるべきである。ただし、取引によって買い手の求める結果は異なるだろうし、戦略に触れるために売り手の視点でも考える必要はある。

    不景気といわれる昨今、価格競争でより安価に品物を売却するという流れが起こったが、今ではウェイトレスがメイドの喫茶店が流行ったり、栄養価を考えて弁当を購入したりといった、価格以外での購買要素も重要視されるようになってきている。つまり買い手は、安ければ何でもいいと、単純に考えているわけではないのである。売り手側としても価格競争を繰り返せば採算がとれなくなり、いずれは経営が成り立たなくなってしまうため、価格外競争で購買数を伸ばそうと考えることは当然である。ここに売り手と買い手の共通利益がある。どちらも価格以外の付加価値を求めている。とはいえ、買い手としては安いに越したことはないから、価格競争を無視できるというわけではないだろう。

    商品にどんな付加価値を加えるべきかという研究は、売り手の売上を伸ばし、買い手の購買欲を高めるために必要である。では、売り手側のどういった付加価値によって買い手側が満足し、購入にまで至るのだろうか。主に買い手側の視点に立って、私の経験を基に、以下に論じる。
    1.ボウリング

    私の趣味はボウリングで、週末には友人と本格的な勝負に興じている。近場にボウリング場は3軒あるが、毎回行くボウリング場は変わらない。では、何故そのボウリング場を贔屓にしているのだろうか。3軒あるボウリング場の特徴を列挙し、分析してみる。

    まずAボウリング場(以後A)に関しては、価格、サービス、施設の規模、全てにおいて他店舗に劣る個人経営のボウリング場であるため、選考から外す。次に、Bボウリング場(以後B)は、1ゲームあたりの価格が300円、午前中は100円である。また、午前中限定で1000円投げ放題というサービスもある。ただし、これはワンドリンクを別料金で注文しなくてはならず、実質1200円である。最後にCボウリング場(以後C)は、1ゲーム690円であるが、午前中であれば1ゲーム480円になり、更に会員になれば時間に関係なく370円になる。また、6ゲームパックという価格サービスがあり、1880円で6ゲームまで楽しめる。

    料金だけ見ればBが最も安価ではあるが、私が贔屓にしているボウリング場はCである。そこで付加価値を見てみると、Cには他店舗にはないサービスがある。公式ルールに則り、2レーンを使い交互に投げられるサービスが存在し、40レーンある中で1~10レーンまでは公式戦に準拠した整備が施してあって、希望すればそこを使わせてもらえるのだ。このサービスは、ロッカーを借りている客や一部の優良客のみが受けられる。排他的な印象を持たれる一方で、本格的に楽しみたいプレーヤーや常連客にはすこぶる評判がいい。

    ここで、私という客がどういった点に満足してボウリング場を選んだかといえば、やはり公式戦に則ったゲームを楽しめるというサービスに他ならない。私という客は、本格的にボウリングをやり込んでおり、基本的なルールを弁えていないような一般客とは差別化してもらいたいという欲求がある。その欲求は、私にとって680円を余計に払ってでも得たいサービスであったということである。もし安価であることが全てであれば、午前中にBへ行くようになっていただろう。
    2.ダーツ

    私にはダーツを趣味としている友人がいる。一方私はダーツに関して完全な素人であり、基本的なマナーやルールさえよくわかっていないが、付き合いでプレイすることも多い。近場にはダーツバーが2軒あって、ボウリングと同様に毎回行く施設は変わらない。では、何故その施設を贔屓にしているのだろうか。また、その理由はボウリングの場合と比べてどうだろうか。

    価格を比較すると、Dダーツバー(以降D)は、ゲーム方式に関係なく1ゲームあたり100円で、時間や会員、プレイ数に応じた価格サービスはない。また、ソフトドリンク制になっているため、最低一杯のドリンクを注文しなくてはならない。Eダーツバー(以降E)もゲーム方式に関係なく1ゲームあたり100円だが、こちらには3時間1000円という価格サービスがある。なお、どちらもダーツの貸出は無料で行っている。

    価格は同じだが、ドリンク代と時間あたりのプレイを考えればEの方が安価である。しかし、ここで価格以外の付加価値を見てみると、やはり両店舗にはサービスの差があった。Dではロングタイプ、ショートタイプ、タングステン製、チタン製等、多種多様なダーツを貸し出している他、使われている機材も新しく高級感がある。Eではダーツはショートタイプのタングステン製のみしか貸し出していないが、無料で投げ方講座が受けられる。

    ここで、私という客がどういった点に満足してダーツバーと選んでいるかといえば、単に価格しか考えていない。つまりEを贔屓にしている。私という客は、ダーツにそれほど関心がなく、友人と遊ぶ以外の目的はないのである。多く金額を払い、他のサービスを受けてまで本格的なダーツをしたいとは考えていないのだ。
    1と2をまとめると、本格的にボウリングをやり更に腕を磨きたいと考えている私は、多く料金を払ってでも、サービスが充実し公式戦に近い環境を与えてくれるボウリング場との取引に満足した。逆にダーツに対して特に興味関心のない私は、より安い料金で遊べるダーツバーとの取引に満足した。というように、求める付加価値に差が出ている。

    以上を踏まえると、各施設は客層を絞って付加価値や価格を設定しているのではないか、という仮説が成り立つ。ボウリングをやろうとする私と、ダーツをやろうとする私では、人物は同じでも遊戯に求める目的が異なっている。つまり買い手としての私はボウリングの場合とダーツの場合とでは客層が異なるのである。

    この仮説が正しいとすれば、商品にどんな付加価値を加えるべきか、という問題に対して、まずは客層を絞った戦略を立てることが重要である。ボウリングを商品として考えたとき、Bは価格を低くすることでボウリングへの敷居を低く設定し、いわゆる「一見さん」や「初心者」といった客層を誘引しようという戦略が窺える。一方、Cは比較的高品質な商品を取り扱うことで、意識の高い客層を狙っている。また、Cは安値でマイボウルを作るサービスを行っていることから、一見さんから意識の高い客層に育てるという営業努力をしていると考えられる。マイボウルを作ってしまえば、作ったからには使ってみようという意識が芽生える。つまりリピーターとなって、再度ボウリング場に訪れやすくなる。そうやってボウリングを続けるうちに上達すれば、意識の高い客層となって、立派な顧客となるだろう。なお、Aは町内会に属することで地域に密着し、お祭り後の打ち上げ等で大会を開いていることから、町内会の相互扶助で成り立っていると考えられる。

    以上から、価格以外に付加価値が重要視される場合、買い手にある種の「こだわり」のようなものがあると考えられる。例えば無農薬という付加価値を求めて野菜を購入する主婦は、おそらく「健康」というこだわりがあるだろうし、クリスマス限定という付加価値を求めてレストランに訪れる男女は、おそらく「雰囲気」にこだわりがあると予想できる。だとすれば、その「こだわり」が何なのか、「こだわり」を持っている客層の規模はどのくらいなのか、という調査により、「買い手が取引に満足」した状況を作ることは可能である。つまり、売り手がターゲットにした客層の「こだわり」を視野に入れた上で、それを理解してサービスを付加価値として加えることで、買い手は取引に満足し、購入に至ると考えられるのではないだろうか。

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