「地獄変」-語り手による操作
「地獄変」は、1918年5月1日から22日まで「大阪毎日新聞」「東京日々新聞」にて連載された。宇治拾遺物語巻「絵仏師良秀家の焼くるを見て悦ぶ事」、古今著聞集巻「巨勢弘高地獄変の屏風を書く事」などをモチーフにしている作品である。
「地獄変」は、「人間性放棄によって、芸術美の完成を得るという作者自身の芸術至上主義を語る作品」1などとして、芥川自身の芸術至上主義と絡めて高く評価されてきた。しかし、作中の語り手に着目し、その信憑性を問う事で、芸術至上主義のみならずその他様々な事象が隠されている可能性を探る事が出来る。また、良秀の自殺が、作中での芸術至上主義を打ち砕く可能性を含んでいる。この二点の可能性に関する考察を行う。
1.語り手の信憑性
本作は、地獄変の屏風を良秀に描かせた「堀川の大殿様」に「二十年来御奉公」してきた
<語り手>のナレーションにより進行する。まずは<語り手>の語り方に着目しながら、語りの信憑性を検証する。
1-1.「堀川の大殿様」に関する記述
以下は「地獄変」の冒頭である。
堀川の大殿様のような方は、これまではもとより、後...