民法総則2

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    課題:時効制度の存在理由につき論じよ。
    要約:時効の存在理由として、伝統的に挙げられる3つの理由につきそれぞれ言及し、その上で法定証拠説からの批判へと繋げる。学説として、実体説(権利得喪説)、訴訟法説(法定証拠説)を挙げて、これらと存在理由を関連させて検討している。
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    民法総則2

    課題:時効制度の存在理由につき論じよ。
    要約:時効の存在理由として、伝統的に挙げられる3つの理由につきそれぞれ言及し、その上で法定証拠説からの批判へと繋げる。学説として、実体説(権利得喪説)、訴訟法説(法定証拠説)を挙げて、これらと存在理由を関連させて検討する。
    答案:まず初めに、時効とは、時の経過によって法律関係が変動することであり、この時効制度には、取得時効と消滅時効とがある。①取得時効とは、一定時間の経過によって権利を取得する制度である。また、②消滅時効は、一定間権利が行使されなかったことにより、その権利が消滅してしまうものである。

    次に、時効の存在理由についてであるが、これに関しては、民法の規定する効果に着目する立場と、時効制度の存在理由から出発する立場とに見解が分かれている。以下において、この2説に関して詳しく論述することにしたい。

    第一の見解とし①権利得喪説は、民法162条「取得する」同法167条「消滅する」との規定があることから、時効を権利の得喪原因とみて、一定の事実状態が一定期間継続することにより、権利の取得または消滅を生じさせる法律要件であるとする立場である。これは、法律関係の安定、合わせて証拠関係の不明瞭を避け、「権利の上に眠っていた者に法の保護を与えない」ことを目的とし、「永続した事実関係をそのまま保護する」という理由からくる説である。すなわち、外形的事実の権利関係の不一致を前提とし、その上で時効を権利の所得・消滅という事実的な効果を生じさせる制度と解することから、実体法説とも呼ばれる。

    第二の見解である②法定証拠説は、前述の権利得喪説に対し批判的である。権利得喪説に関して、取得時効によって無権利者が権利を取得し、消滅時効によって権利者は権利を失うことを肯定する点を、道徳上肯定できないと否定する。すなわち、法定証拠説は、「永続した事実状態が真実の権利関係に合致している確率は極めて高い」ことを前提とし、「法律関係の安定と権利の上に眠る者は保護しない」というのは、事実状態と権利関係の不合致が前提なので排除すべきであり、存在理由は「立証困難の救済に場合に限られる」とする。これは、「外形的事実と真実の権利関係とが一致する確率が高い」という前提の上に証拠が無くても、権利の取得・消滅を推定し、反証を許さないとする制度とも解されることから、推定説・訴訟法説とも呼ばれる。

    ここから、時効制度の法的構成をみていくことにする。時効は、時間の経過を要件とし、民法上、時効が完成すれば、権利そのものの取得・消滅の効果が生じる。法定証拠説から批判はあるが、我国の時効制度は、権利の取得・消滅の原因を要件として構成することから、時効は法律要件とされるということになる。なお、権利得喪説では、法律関係の安定を時効制度の存在理由とするので、時効に関する規定を「強行法規」であると解している。加えて、法定証拠説においても、時効を証拠方法だとし、「強行法規」と考える点では同様である。

    時効の効果は、法定の時効期間が満了することによって完成し、民法114条によりその効果は起算日に遡る。これが、時効の遡及効である。

    民法145条には、時効の援用について規定があり、これは、時効によって利益を受ける者が、時効の利益を受けることの意思表示をなすこととされる。なお、時効の援用の性質に関して、学説の見解が分かれので、この点を以下において検討したい。

    まず、①法定証拠説においては、時効を訴訟上の制度として捉え、援用は、機関の経過による権利の得喪という法定証拠を裁判所に提出する行為であって、訴訟法上の攻撃防御の方法にすぎないとする。この説に対し、民事訴訟法247条によって自由心証主義が採用され法定証拠主義は採用されていないので、民法の明文規定により、権利の得喪という実体法上の効果を生じるものとしてされ、これを訴訟上の制度として位置づけるのは困難であるという批判がなされる。

    次に、②権利得喪説においては、時効は、権利者の権利を消滅させ無権利者が権利を取得制度、すなわち、実体法上の権利得喪原因であるとして捉え、時効の利益享受を当事者の意思にかからせるものとみている。この見解は、さらに細かくa確定効果説と、b不確定効果説とに分かれる。

    a確定効果説は、時効期間の満了により確定的に権利の得喪が生じ、援用は訴訟上の攻撃防御にすぎないとするのもで、従来においては判例であった。しかし、この説では、実体法と裁判の結果とに矛盾が生じるので不都合が起こるとして、「時効は期間の効力によっては確定的には生ぜず、援用により初めて、時効の効果が確定する」というb不確定効果説が生ずることとなった。そして、この不確定効果説は、さらに細かくⅰ解除条件説とⅱ製紙条件説とに見解が分かれている。

    ⅰ解除条件説によると、権利の得喪は、時効の完成により一応生じるものの、時効の援用をすればそれが後に確定し、仮に時効利益を放棄すれば権利得喪の効果は遡及的に生じないことに確定するとする見解である。この説は、法文の文言に忠実な解釈である。しかし、時効完成後に債務を弁済したような場合に、この弁済によって債務者は、時効の援用をしない意思表示をしたものとされ、これにより債務が復活し、そして復活した債務が弁済によって消滅することとなる。すなわち、債務の弁済が、債務を復活させる効果とともに、債務を消滅させる効果を発生させるという奇妙な結果が生じてしまう。

    もう一つの見解であるⅱ停止条件説は、現在の判例並びに多数説である。この説は、期間の経過によってのみでは権利の得喪は生じず、援用によって初めてその効果が生じる。そして、時効利益の放棄によって時効の効果が生じないことに確定するとする説で、民法162条、167条、145条を実体法上の制度として説明できるという利点を有している。

    したがって、以上論述してきた内容を考慮すると、時効制度の存在理由としては、権利得喪説が他説よりも妥当であると解する。この説を採ると、時効による権利取得・消滅までには一定の期間が要求され、更に、そこには永続した事実状態もあり、法律関係の安定への要請も可能となる。なお、取得時効と消滅時効の法的役割を示す見解としても適切であり、時効の援用に関しては、期間の経過によってのみでは権利の得喪は生じず、援用によって初めてその効果が生じるとしており、民法条文を実体法上の制度として説明する上でも、権利得喪説の中の停止条件説が最も適切な見解である。

                                         以上

    参考文献

    大村敦志『基本民法Ⅰ』有斐閣,2002年

    内田貴『民法Ⅰ』東京大学出版会,2000年

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