(1)民事事件における訴訟遂行場面では、代理人である弁護士が、真実義務と依頼者に対する誠実義務や守秘義務との衝突に直面することが多々あると思われる。
この点、依頼者に対する誠実義務を無制約なものとすればこの衝突は起こりえない。しかし、一般には、弁護士の公共的使命ないしそれに基づく誠実義務により一定の制約を受けるものと解される。すなわち、弁護士が信義誠実義務によって実現すべき依頼者の利益は、職務基本規程21条に「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める」と明記されているように、社会正義に適う「正当な利益」でなければならないのである。
このように弁護士に期待されている役割からすれば、依頼者が不当な目的での業務や、不当な手段による業務を依頼してきたときには、依頼者を説得してその実現を阻止することが求められる。
では、本問のように弁護士が依頼者にとって不利益な内容を含む証拠を保持していた場合に、訴訟において当該証拠を秘匿することは許されるであろうか。
この点、当事者主義・弁論主義をとる民事訴訟において、当事者は文書提出義務(民事訴訟法220条以下)を負う場合を除けば積極的に証拠を提出する義務を負っているわけではない。
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(1) 民事事件における訴訟遂行場面では、代理人である弁護士が、真実義務と依頼者に対する誠実義務や守秘義務との衝突に直面することが多々あると思われる。
この点、依頼者に対する誠実義務を無制約なものとすればこの衝突は起こりえない。しかし、一般には、弁護士の公共的使命ないしそれに基づく誠実義務により一定の制約を受けるものと解される。すなわち、弁護士が信義誠実義務によって実現すべき依頼者の利益は、職務基本規程21条に「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める」と明記されているように、社会正義に適う「正当な利益」でなければならないのである。
このように弁護士に期待されている役割からすれば、依頼者が不当な目的での業務や、不当な手段による業務を依頼してきたときには、依頼者を説得してその実現を阻止することが求められる。
では、本問のように弁護士が依頼者にとって不利益な内容を含む証拠を保持していた場合に、訴訟において当該証拠を秘匿することは許されるであろうか。
この点、当事者主義・弁論主義をとる民事訴訟において、当事者は文書提出義務(民事訴訟法220条以下)を負う...